「東京発」の牛乳ブランドが今月お目見えする。その名も「東京牛乳」。「低迷する牛乳消費の起爆剤に」と関係者の期待は膨らむ。
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ハイテク牧場では、乳牛の首輪につけられたICチップで1体1体の搾乳量を管理している=東京都瑞穂町の清水牧場 |
初の「地元の味」
関東地区限定で12日に発売される「多摩酪農家発東京牛乳」。大手牛乳メーカーの協同乳業が東京都酪農業協同組合と共同開発した。都内の青梅市、八王子市など多摩地区の酪農家から毎日生乳を集めて同社工場で殺菌パックし、出荷される。
都内には現在、約80軒の酪農家がある。しかし、総生産量は都内の消費量のわずか4%。ほとんどの都民が純粋な“地元の味”を知らないことになる。
「地産地消への取り組みとあわせ、“生産者の顔が見える”ことが親近感や安心感につながり、低迷する牛乳の消費の拡大につながれば」(同社営業商品開発部)とメーカーは望みをかける。
牛ストレス軽減
東京でどんな酪農が行われているのか−。
瑞穂町にある「清水牧場」では、放し飼い方式の牛舎に約120頭のホルスタインが飼育されている。今年3月に都内初のロボット式搾乳システムを導入。すべての搾乳作業を自動で行っている。
以前は、朝夕に人が器具を運びながら搾乳していたが、今では乳が張ると「搾って!」とばかりに牛の方がロボットのある場所まで歩いてくる。
まず、飼料が出てきて、食べている間に光センサーが乳頭を感知し、洗浄する。続いて搾乳機が自動的に装着され、搾乳を行う。首輪につけられたICチップで個体ごとの搾乳量などは管理されているので、食いしん坊の牛が何度もやってきても門前払いされる。
24時間、牛が搾ってほしいときに搾乳してもらえるのでストレスが軽減し、「牛乳の質がよくなったし、1頭当たりの乳量が1、2割増えた」と、牧場主の清水陸央さん。また、清水さんらの作業も軽減され、「午後6時から一杯飲める(笑)。自由時間が増えたね」と笑顔で話す。
消臭ファーム
八王子市にある「磯沼ミルクファーム」は、約90頭の牛がいると思えないぐらい牛舎のにおいが気にならない。「焙煎(ばいせん)したコーヒー豆と、カカオ豆の皮を下に敷いているんですよ」と、牧場主の磯沼正徳さんは説明する。
カカオ豆の硬い皮を手に取ると、ほんのりとチョコレートの甘い香りが。におい消しだけでなく、こんな効果もある。
「食べちゃう牛もいるんですが、残っているカフェインが、体脂肪を乳脂肪に変える働きがあるんです」。さらに、良質な堆肥(たいひ)が生産でき、まさに“一石三鳥”だ。
平成14年には「酪農教育ファーム」に認定され、一般の人たちが牛と触れ合えるイベントを行っている。
「東京牛乳」は、磯沼さんにとっても「夢だった」とか。「東京の酪農の歴史は江戸時代後期にさかのぼります。伝統を大切にするためにも地元のおいしい牛乳を味わって、生産現場にも足を運んでもらいたい」
住宅地が迫る東京の牧場。そこで行われている酪農はきつい、汚い、くさい、という3Kのイメージを覆すものだった。