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「電源オフ」無視、電波抑止で対抗
携帯電話、広がる「圏外」  
  東京朝刊 by 森浩
今や地下でも山頂でも通じるようになった携帯電話だが、その一方で、「圏外」を確保する取り組みに注目が集まっている。アンテナの位置を工夫して電波を制限している駅や、専用の「電波抑止装置」を導入するコンサートホールが登場しているのだ。背景には、電源オフを呼びかけてもなかなか応じてもらえず、「マナーに頼っていられない」という切実な声がある。

国立演芸場では平成12年から、観客席の上の屋根裏に「電波抑止装置」を設置している。「夢を与える劇場に携帯の電子音はそぐわない」のが理由だ=東京都千代田区(撮影・森浩)

怒るホール
甘い調べが流れるコンサートホール。優雅なひとときを切り裂く無情な電子音…。「いくらアナウンスをしても切らない人が実に多い。『掛かってこない』と決めてかかっているのでしょうか」と、東京都内のコンサートホール関係者は怒りをあらわにした。

そんな中、売り上げを伸ばす機械がある。「おかげさまで問い合わせが殺到中です。ブロードウェーの劇場からもありました」と語るのは、電波抑止装置「サイレントマスター」を発売する三精輸送機(大阪)テクノサービス部の仲辻猛士さん。サイレントマスターは「電波をもって電波を抑える」機械だ。携帯電話と同じ周波数の電波を発することで、携帯電話の発着信を防ぐことができる。「阻止できる範囲は(直径)100メートル。座席でいうと約300〜500席分を圏外にすることができます」と説明する。

1台190万円だが、平成12年の販売開始以降、サントリーホールやオーチャードホール(いずれも東京)、梅田芸術劇場(大阪)など大規模ホールに100台以上納入。導入したホールの1つ、新宿明治安田生命ホールでは「例えば落語だと噺(はなし)の最中に鳴っただけで、一気に興ざめになってしまう。素晴らしい名人芸を安心して聞くためにも必要」と“芸術的効果”を語る。同社は秋にも、より高機能な新製品を予定していて、「将来的には10億円規模の事業になるのでは」(仲辻さん)とソロバンをはじく。

ホームを圏外に
携帯電話のマナーで問題となるのが電車内だ。

“強硬策”に出たのが名古屋市内の地下鉄を運営する名古屋市交通局。一昨年から、全国初の試みとして、72駅でホームや電車内を“圏外”にした。改札口付近やコンコースにあるアンテナの位置を調整することで、電波がホームや線路上に流れないようにした。

一番の理由は心臓ペースメーカーへの影響だ。大半の携帯電話の電波は、心臓ペースメーカーの誤作動を招く恐れがあるとされる。総務省は、ペースメーカーと携帯電話は22センチ以上離すという指針を示している。同市交通局では「ラッシュ時のホームや列車内では指針を守ることは不可能」と判断し、“圏外化”に踏み切った。  開始直後には「何も圏外にしなくても」というビジネスマンを中心とした反発も寄せられた。交通局資産活用課では「何かあってからでは遅い。(アナウンスや広報をしても)なかなか携帯電話を切ってもらえない現状もある」とやむを得ない決断の理由を説明する。

合理的な判断
ネット調査会社のインターネットコムとエクスプレスリサーチが1月に実施した携帯電話のマナーに関する調査(332人対象)によると、電源を切る(マナーモードにする)べき場所に関する設問では、「劇場や映画館」(312人)、「電車内」(261人)を挙げる人が多かった(複数回答可)。その一方で、電源を切るべきだと思いつつも、「事情によってはできないことがある」と71人が答えた。

お茶の水女子大学助教授の坂元章さん(社会心理学)は、「いくら言っても『大して迷惑ではない』と判断する人はいる。そういう人がいる以上、劇場、駅の判断で圏外にするのは合理的な判断なのではないか」と“実力行使”に一定の理解を示している。

電波法に抵触…使用には免許が必要
着信音を阻止するために、電波抑止装置を買ってみようかしら…と思っても簡単にはいかない。実際の使用には免許が必要になるのだ。

一定の範囲で携帯電話の通信機能を抑止するには、「携帯電話の基地局からの電波に対抗するため、強い電波を発射しなくてはならない」(総務省)という。結果として、発信できる電波の強さを定めた電波法に抵触することになる。

免許を受けずに使用した場合、電波法違反(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)に問われることになる。「サイレントマスター」を導入しているコンサートホールはすべて電波法に基づく無線局の免許を得ている。だが、インターネット上や秋葉原などの電気街では、1万円前後から装置が買えてしまう。同省電波環境課では「電波が弱く免許は不要であると宣伝されているが、そうではなく、効果も不明なものが多い」と注意を呼びかけている。



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