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現代の怪物、ルーツ追う
「ハンニバル・ライジング」ピーター・ウェーバー監督に聞く
  東京朝刊 by 岡田敏一
21日公開の「ハンニバル・ライジング」は、アカデミー賞で主要5部門を獲得した「羊たちの沈黙」(1991年)に登場し、世界で最も有名な悪役のひとりとなった連続殺人鬼、レクター博士のルーツに迫る人間ドラマ。「真珠の耳飾りの少女」(2003年)で名を上げたピーター・ウェーバー監督は「フランケンシュタインやドラキュラに匹敵する現代の怪物を作り出したかった」と語った。

ハンニバル・レクターを演じる若手俳優ギャスパー・ウリエル
ハンニバル・レクターを演じる若手俳優ギャスパー・ウリエル

ストーリーは、第二次大戦中のリトアニアからはじまる。名門貴族として知られるレクター家は戦火を避け田舎に疎開するのだが、ドイツ軍はレクター家の幼い長男ハンニバル(のちのレクター博士)と妹のミーシャの目前で両親を殺害。その後、山小屋を乗っ取った別の逃亡兵たちが、ミーシャに手をかける。ハンニバルは彼らに後頭部を殴られて気を失い、記憶をなくす。

戦後、彼はソ連政権下のリトアニアの孤児院に送られ、辛い日々を過ごすが、曲折を経てパリの叔父のもとへ。叔母の日本女性レディ・ムラサキ(コン・リー)の影響で日本文化に精通。その後、医学の道に進むのだが、ある事件を契機に殺人に魅せられていく…。

「極めて人間的なところに惹(ひ)かれるね。気品高く高尚な趣味を楽しむなど、極めて洗練された面を持ちながら、邪悪なサイコパスであり復讐(ふくしゅう)鬼でもある。高貴さとサディスティックな性癖が同居しており、人間の明るい面とダークな面を兼ね備えている」

ハンニバルの魅力についてこう説明する監督だが、知性と残虐性を屈折した形で誇示する犯罪者レクター博士の際立ったキャラクターは全世界で大人気を博し、「羊たちの沈黙」のあと、「ハンニバル」(01年)「レッド・ドラゴン」(02年)が映画化された。

そんな彼のルーツを描くにあたって、さぞプレッシャーもあっただろうと思うが、監督は少しばかり違ったアプローチをとった。

「実在する殺人鬼に根ざしたキャラではないし、なぜか共感も得ている。そこでフランケンシュタインやドラキュラのように、親しみを感じる怪物に仕立て上げようと思ったんだ」

確かに本作では残虐描写は抑え目だ。青年期のハンニバル(ギャスパー・ウリエル)は白衣を着た端正なマスクの美男子。不気味な日本の鎧兜(よろいかぶと)や日本刀が神秘的な要素を強めているものの、殺人に至る心理描写や殺害方法のリアリティーはそれほど追求していない。

「幼少期の悲惨な体験が人間性を徐々に奪い、復讐に燃える殺人鬼を誕生させた」(ウェーバー監督)という話を聞いて、思い浮かべた映画がある。

「スター・ウォーズ」のエピソード1〜3で描かれたダース・ベイダーのルーツだ。もしかしてレクター博士はダース・ベイダーですか?

「そういう見方も確かにできるね(笑)。どちらも致命的な欠陥を持ったヒーローが高みから落ちていく物語だし…。ま、大人のためのおとぎ話と思ってもらえれば結構さ」

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