25日公開の独・スイス合作映画「厨房(ちゅうぼう)で逢いましょう」は、人付き合いは極度に下手だが料理の腕前は天才的なシェフが子持ちの人妻に恋をするというほろ苦い恋愛作品だ。監督・脚本はドイツ映画界で評価を高めている新鋭のミヒャエル・ホーフマン。「おいしい料理が理屈抜きに人を惹(ひ)きつけるように、人は心の声に正直に生きるべきだということを訴えたかった」などと製作意図を語った。
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調理の場面や登場する料理が美しく描かれる |
南独の保養地にグルメをうならせる“官能料理”を出すレストランがある。経営者兼シェフはグレゴア(ヨーゼフ・オステンドルフ)。料理の腕は天才的だが、人付き合いが極度に下手。他人とまともに会話できない。
そんな彼がひそかに思いを寄せているのが、休憩時間をこのレストランで過ごすカフェのウェイトレス、エデン(シャルロット・ロシュ)。夫のクサヴァー(デーヴィト・シュトリーゾフ)と幼い娘との3人暮らしの彼女は、ふとしたきっかけで彼の作ったお菓子を口にする。
あまりのおいしさに衝撃を受けたエデンはいつしか、夫が家を空ける毎週火曜日、娘とともに彼の厨房を訪れるようになる。グレゴアもエデンを喜ばせようと、料理の腕に磨きをかける。そんな2人の関係を友人から聞いたクサヴァーは彼のレストランを訪れるのだが、やはりあまりのおいしさに衝撃を受ける。クサヴァーは妻と娘の心をグレゴアから引き離そうと画策するのだが…。
もともとはかなり違った物語だったそうだ。「小さな子供が妊婦の大きなおなかを見て『自分もあんな大きなおなかになりたい』とたくさんご飯を食べるという物語だった」。それを「食や料理が人間に与えるさまざまな影響力を、よりわかりやすくアピールするような作品にアレンジし直したんだ」。
主人公グレゴアは、立派なおなかをめざし「青春時代も取りつかれたように食べ続けて太った男」という設定。「日本人には理解しにくいかもしれないけど、ドイツでは彼のように太った人間は日常生活も支障だらけで、地域社会でもアウトサイダーと見なされる」そうだ。そういう視点で見れば作品から違った印象を受けるだろう。
グレゴア役のオステンドルフは独で最も有名な俳優だが、音楽番組の司会者として有名なエデン役のロシュはこれが初の映画出演作。2人の絡みについては「各状況に応じて役者が自然な演技を披露できるよう指導した」という。「僕はいつも役者に演出が付いていないように見せたくてね」
奥ゆかしさと生真面目(きまじめ)さが印象的だ。好きな監督にフランソワ・トリュフォー(仏)を挙げる映画人も最近は少なくなった。
「ハリウッドの大手映画製作会社がこの作品に興味を持ってくれたらしいけど、ハリウッド映画は世界が違うという感じ。きっと『善き人のためのソナタ』(ドイツ映画)が今年のアカデミー賞で外国語映画賞を獲得したから、単なる便乗なんだろうなあ…」
ハリウッド映画のような大ハッピーエンドではなく、切ない片思いなのだが決して悲観的ではない。「ところどころ笑える内容に仕上がったことは自慢できるね」