英ビクトリア王朝時代の人気女流作家、マリー・コレリの生き方を描くベルギー・英・仏合作の「エンジェル」(12月8日公開)。監督は「8人の女たち」で知られるフランスの技巧派、フランソワ・オゾンで、1950年代のハリウッド黄金期のような絢爛豪華(けんらんごうか)な映像と重厚なタッチで女性の成功物語を描く。
舞台は1900年代初頭の英国。主人公のエンジェル(ロモーラ・ガライ)は、田舎の商店街で食料品店を営む母親と2人で暮らすが、なぜか彼女は自分が貴族の娘であるかのように振る舞い、質素で平凡な母や親戚(しんせき)を小ばかにする。
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仏のフランソワ・オゾン監督が50年代の黄金期のハリウッド映画にオマージュをささげた「エンジェル」 |
彼女の夢は、近くにある豪邸「パラダイス」に住み、使用人や有名人に囲まれてゴージャスな日々を送ることだった。夢をかなえるため彼女は小説を書く。ケタ外れの想像力を駆使して書かれた処女小説は舞台化されるほどの大ヒットを記録。スター作家となった彼女は売りに出ていた「パラダイス」を買い、母とそこに引っ越し、意中の画家とも結婚。望みをすべてかなえるのだが…。
くせ者、オゾン監督の作品とあって見る前に身構えたが、ハリウッドの娯楽大作に近いシンプルな作風に。
「僕の作品はさまざまな解釈ができるよう間口を広くし、隠された意味を探りやすくしている。インテリ層が喜ぶようにね(笑い)。でも本作はハリウッド風の人間ドラマなんだ」と監督。「作品の質と豊かな人生。アーティストはどちらを優先すべきかという問いかけと、凡庸(ぼんよう)な人でも望めば成功を勝ち取れることを訴えたかったんだ」
本作は英女流作家エリザベス・テイラーの同名小説が原作。オゾン監督は「原作もコレリの小説も読んだけど、コレリの小説は今読むと悪趣味で滑稽(こっけい)。オスカー・ワイルドが友人で英初のスター作家だったけど同性愛者で破天荒な人物だった…」。
そんなエンジェルを演じた英女優ガライだが、成功前の秘めた強さ、成功後の華やかさ、没落時のはかなさを見事に演じ分ける。
「彼女もエンジェルと同様、演技では一切妥協を許さず、よくケンカしたよ。プロ意識の高い英の役者は仏と違って即興性より事前の練習を重視するしね」
現実と空想の世界を激しく往来し、自身のプライドを守るため平然と過去を捏造(ねつぞう)する彼女。一方で浮気性のダメ男に入れ込み傷つく弱さも。
終盤、彼女は自問自答する。
「私は生き方を間違ったの?すべては夢で、何一つ現実ではないの?」
人の一生は死ぬ間際に必ず収支トントンになるといわれる。本作が最も訴えたかったことは、その普遍的な事実のような気がする。