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大臣を辞職した男、生きる意味を発見
映画「ここに幸あり」平凡な人生の幸福
2007/12/07 産経新聞    東京朝刊 by 岡田敏一
突如、大臣の職を追われた男が、自由を謳歌(おうか)する中で人間性を取り戻し、生きることの意味や楽しさに気付くという仏伊露の合作映画「ここに幸あり」(監督・脚本・出演=オタール・イオセリアーニ)が12月1日から公開となる。イオセリアーニ監督らしい飄々(ひょうひょう)とした作風に加え、フランスを代表する名男優ミシェル・ピコリ(81)がおばあちゃん役を演じるなど、見どころの多い内容だ。

本当の幸せとは何か? 飄々としたタッチでその答えを教えてくれる「ここに幸あり」
本当の幸せとは何か? 飄々としたタッチでその答えを教えてくれる「ここに幸あり」

舞台は現代のパリ。大臣のヴァンサン(セヴラン・ブランシェ)は、市民デモに関する問題発言で大臣を辞職する羽目になる。お気に入りの一枚の絵と孫の手だけを持って庁舎を寂しく後にするヴァンサン。愛人は愛想を尽かして逃げてゆき、元妻からも相手にされない。

仕方なく老いた母(ピコリ)を訪ね、彼女が昔、住んでいたアパートの鍵とお金をもらう。そのアパートに行くとアフリカからの移民が不法占拠…。災難続きのヴァンサンだが、昔の友人や知人たちは“ただの人”になった彼に温かく手を差し伸べる…。

イオセリアーニ監督は、演技経験のない素人を起用することで知られる。本作では珍しくピコリを起用しているが、基本的な作風は彼の過去の作品「素敵な歌と舟はゆく」(1999年)や「月曜日に乾杯!」(2002年)と同様、あくまで自然体。

ハリウッド映画のような劇的な展開はないが、「人間の貪欲さ、権力への渇望といった誰もが知っているようなことを描いている」(イオセリアーニ監督)本作は、“平凡であることが実は一番幸せである”という普遍的な価値観を、フランスらしいエスプリの利いた展開で軽やかに描く。

ヴァンサンがアフリカ系移民のホームレスたちとともに橋の下で寝たり、自分と同じ境遇を歩むことになった男と酒を酌み交わす場面に、この監督の人を見つめるまなざしの温かさが凝縮されている。

百本以上の映画への出演経験のあるピコリが演じる白髪のおばあちゃんは本作最大の見どころ。最近はハリウッドでも男優が中年女性を演じるのが一種のブームになっているが、こうした流れは世界的なものであるようだ。

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