ごく普通のサラリーマンが、これから発売されるミステリー小説の内容と全く同じ事件に巻き込まれる映画「スターフィッシュホテル」が3日から、公開される。「不思議の国のアリス」と日本の怪談を融合し、デヴィッド・リンチ監督風の不条理で異様な作風。監督・脚本を手がけた在日約20年の英国人のジョン・ウィリアムズは「和洋折衷の世界観、夢と現実のあいまいさをうまく伝えたかった」と語った。
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監督・脚本を手掛けたジョン・ウィリアムズ(撮影・岡田敏一) |
設計事務所勤務の妻、ちさと(木村多江)と裕福に暮らす建築会社員の有須(佐藤浩市)。人気ミステリー作家の黒田(串田和美)の作品を読むことが唯一の楽しみだが、その刺激的な内容のためか、有須は毎夜、悪夢にうなされる。そんな時、街でウサギの着ぐるみ姿の怪しい男(柄本明)と出会ったのをきっかけに、妻の失踪(しっそう)など不可解な出来事が次々と起こる。
そして待望の黒田の最新作を手にした有須は驚く。タイトルの「スターフィッシュホテル」は、有須がかつて不倫相手と出会ったホテルの名前で、物語はまさに自分が直面する不条理な出来事そのものだった…。
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映画「スターフィッシュホテル」 |
小説の内容が自分の行動と同じだったというユニークなコンセプトについて、「5年ほど前、JR中央線を良く使っていたのですが、東京の人って電車で本ばかり読んでるでしょ。当時、ビートたけしさんの広告が車内にたくさんあって、いつも彼ににらまれている感じがした。そこで彼のような小説家に実際の人物の人生を悪夢っぽく描かせようという発想が始まりだった」と振り返る。
その後、アイデアをさらに練り、英語で4回、日本語で8回脚本を書き直すなどした。その段階で「男の弱い面をうまく演じてくれる」との理由から主役に佐藤を想定していたという。
長編2作目。「舞台となるホテルは、雪深い福島県会津若松市にある大正3年の建物を使い、撮影監督にオランダ人を起用して、異国っぽい感じの映像づくりに務めた」と語る。
谷崎潤一郎や黒澤明、小津安二郎らに多大な影響を受けただけでなく「父が科学者で、私自身は仏教や日本の美に強い影響を受けた。キリスト教には縁がない一家で育った」。そのせいか作品からは、キリスト教的価値観とは無縁の美意識が感じられる。
とはいえ黒と赤を強調した耽美的でエロティックな雰囲気、狂気をはらんだ柄本の怪演などは、リンチ監督の「ブルーベルベット」「ツイン・ピークス」も想起させる。
「これからも日本を舞台にしたホラー映画など、さまざまなアイデアを映画化したい」と意欲的。ただ、製作費が1億円を超えると、「テレビ局や大手映画会社と組まねばならず、娯楽性重視で作品の独創性が軽視される。そのあたりの兼ね合いが難しいですね」。