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狂気…問い続けた「なぜ」
「硫黄島からの手紙」日系人脚本家が語る
2月7日(水)東京朝刊
【ロサンゼルス=松尾理也】事実上のデビュー作、米映画「硫黄島からの手紙」(クリント・イーストウッド監督)の脚本で、いきなりアカデミー賞脚本賞にノミネートされた日系人脚本家、アイリス・ヤマシタさんが産経新聞のインタビューに応じ、日系米人としての立場と作品との関係などについて語るとともに、自らの創作姿勢について「どのような狂気や蛮行であれ、その理由について“なぜ”と問い続けた」と述べた。

アイリス・ヤマシタさん(撮影・松尾理也)
アイリス・ヤマシタさん(撮影・松尾理也)

ヤマシタさんは脚本家をめざしてはいたものの、今回の脚本執筆まではウェブ・プログラマーが本職だった。ハリウッド・デビューだけでも脚本家として極めて狭き門をくぐり抜けたことになるが、さらにいきなりアカデミー賞にまでノミネートされ、「考えられないような幸運」とはにかむ。

戦後に米国へ移住した父母を持つ日系2世。戦時、東京近郊に住んでいた母親から、空襲の話を聞かされて育った。「だから、日本の戦争についての知識はあった」。これまでに書いた脚本の1つは、第二次世界大戦前夜の東京を舞台にしている。日本への関心は、もともと少なからずあった。ただし、「硫黄島−」の脚本に関しては、書籍や資料をもとに広範な調査を行ったという。

映画では、自決を強要するなどの日本の不合理さが容赦なく暴かれる一方、米兵が投降した日本兵を射殺するシーンなど、米国側の「悪」も描き出される。こういった内容に対する反応については「ほとんどが好意的だった。日米ともにそうだった」と驚く。「日系米人としての私の立場が、物語を客観的に語るのに役立ったのかもしれない」とも述べた。

第二次世界大戦終結から60年を過ぎ、さらにイラク戦争をめぐって世論が沸騰するなどの情勢が、「硫黄島−」という作品に、一層の社会性と話題性を持たせたという指摘もある。しかし、ヤマシタさんは「脚本を書き始めた2年前はイラク戦争の行方がどうなっているかはだれにもわからなかった」と、作品に政治的な意図は一切、込められていないことを強調した。

「日本の軍国主義を賛美するつもりは一切ありませんでした。日本のふつうの人々の姿や考えを描きたいと思っただけです」

どのような視点を取るかによってがらりと内容が変わる「戦争」という題材にもかかわらず、「硫黄島−」には、両国からおおむね「公平だ」との評価が上がった。ヤマシタさんは自らの創作過程を振り返り、「いつも“なぜ”と問いかけることを自分に課した。どんなに狂信的な、野蛮な行為であったとしても、単に日本兵を残虐な存在として描くのではなく、“なぜ彼はそうしたのか”と考え続けた」と「フェアであること」の難しさについて述べた。

アカデミー賞の発表・授賞式は2月25日に行われる。

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淀川長治の銀幕旅行
【プロフィル】アイリス・ヤマシタ
米国に移住した日本人の両親のもと、ミズーリ州に生まれる。カリフォルニア大学バークリー校で機械工学を学んだ後、東京大に1年間留学。ウェブ・プログラマーの仕事のかたわら、趣味で執筆していた脚本が制作総指揮のポール・ハギス氏の目に留まり、抜擢(ばってき)された。航空会社の機内誌向けに短編小説が掲載されたことはあるが、商業映画の脚本を手がけたのは今回が初めて。

【用語解説】硫黄島からの手紙
第二次世界大戦末期の硫黄島での激戦を日本側の視点から描いた作品。ゴールデングローブ賞外国語映画賞をはじめ、米映画批評会議最優秀作品賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞最優秀作品賞を獲得するなど各種映画賞で高い評価を受けた。アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞、音響効果賞の4部門にノミネートされている。