ギャング映画には定評のあるマーティン・スコセッシ(64)監督の新作「
ディパーテッド」の日本公開に向けて、主演のレオナルド・ディカプリオ(32)とスコセッシ監督が宣伝のため来日。18日、東京都内のホテルで記者会見した。
“スコセッシブランド”は強力だ。彼の作品への出演がきっかけでスターダムを駆け上った俳優たちは少なくない。映画「タクシードライバー」(1976年)ではジョディ・フォスターが名子役として名をはせ、伝説のボクサーの数奇な運命を描いた「レイジング・ブル」(80年)ではロバート・デ・ニーロがアカデミー賞主演男優賞に輝いた。
そんなスコセッシ監督と近年、相性がいいのがディカプリオ。「ギャング・オブ・ニューヨーク」(2002年)、「アビエイター」(04年)に続いてこれが3作目となる。
「私にとって日本は影響力の強い国で、その文化は作品にも影響するほど。本当に来日できてうれしい」
ゆったりとした物腰でスコセッシ監督は詰めかけた報道陣に語りかけた。
次いで、ディカプリオがスラリとした身のこなしで登壇。フラッシュの洪水に目をしばたかせながら「(すでに公開されている)全米で大変、成功した作品となっています。久しぶりの来日に素晴らしい作品をもって戻ってこられたことが何よりうれしい」とあいさつ。先に登壇したスコセッシ監督を敬愛のまなざしで見つめた。
02年に香港で製作され大ヒットとなった映画「インファナル・アフェア」を原型とする犯罪サスペンス。舞台はアイルランド系マフィアが一帯を牛耳る米ボストン南部。警察に潜入したマフィアの男、コリン・サリバン(マット・デイモン)と、マフィアに潜入した警察の男、ビリー・コスティガン(レオナルド・ディカプリオ)。そんな鏡に映したような男2人の皮肉な運命を描く。
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ほとんど物語ですれ違うことのないコリンとビリー。撮影は大部分が別々に行われた。
「2人の主人公それぞれの面を味わってほしい。潜入現場の環境にどうやって適応していくか。本来簡単に善と悪に分けることはできないひとりの個性を2つに分けて(マットと)演じたような作品だ。だから、マットとは少し距離を置いたほうがよかった。脚本のうえでも秘密が多い2人だからね」とディカプリオ。
そんな2人の“のりしろ”だったスコセッシ監督は、「2人が共演した場面は2つしかない。屋上とオフィスだ。この物語はうそにまみれている。マットは巧みにうそをつき、完全に道徳観念を忘れ去った男だ。一方のディカプリオは自分のついたうそに苦しみ、心を痛めていく。いずれも同じ道をたどることになるのだがね」。
ディカプリオが非凡な才能を世に見せつけたのはアカデミー助演男優賞にもノミネートされた「ギルバート・ブレイク」(93年)ではないだろうか。まだ20歳にもならない青年だったが、明らかに演技派だった。整った顔立ちのためにアイドル化されてしまわないかと心配もされた。そんなディカプリオも今年で33歳。落ち着いて報道陣の質問に答える。
「俳優としてのジレンマを感じた作品だった。つまり、役柄は警官なのだが、偽者のマフィアを重ねて演じなければならない。これまでに与えられた役はいつも、現実に存在していると思いながら演じてきた。観客を“映画”という旅に連れていくように。だが、今回は終始、20人ほどのマフィアに囲まれながらの撮影。いつ殺されるか分からない緊張感はとても重かった」と新境地の作品であったことを明かした。
報道陣からはスコセッシ監督作でディカプリオも出演した「ギャング・オブ・ニューヨーク」に似ていないかとの指摘の声もあがった。
監督は「(19世紀半ば民族抗争の激しいニューヨークを描いた)『ギャング−』とたしかに双子のような作品で、『ギャング−』の140年後の姿なのかもしれない。だが、決してそうではない。いつの時代も境界は世界を結ぶ線ではなくて、分断してきた。本作を撮りながら、世界貿易センターの事件(米同時多発テロ)以降の道徳や世界の状況がより明らかになった感じがする」との考えを披露した。
だが、スコセッシ監督もまた、ジレンマにぶつかっていたようだ。脚本を担当したウィリアム・モナハンがアイルランド系米国人(先祖がアイルランドからの移民者)だったことへの気遣いもある。
そんなスコセッシ監督にディカプリオは、「監督の俳優の扱い方や演出、アプローチが好きだ。3回目の出演となったが、前作『アビエイター』に続いて興奮する現場だった。私の俳優人生のなかでも監督の作品はハイライトになっている。これからもこの関係を続けていきたい」と敬意を表した。
これに監督は「30歳以上の年の差はあるが、レオには感銘を受ける瞬間がある。現場が混乱していてもその瞬間のために90日間に及ぶ撮影も苦にならないのです」。
どうやら4作目のタッグも間違いなさそう?