本年度のアカデミー賞外国語映画賞でブラジル代表に選ばれた映画「フランシスコの2人の息子」が3月、日本で公開される。本国ブラジルでは興行成績で9週続けて1位を守り、歴代興収記録を大きく塗り替える大ヒット作になっている。
これが監督デビューとなったブレノ・シウヴェイラが宣伝のため来日、話しを聞いた。
日本との時差は12時間。昼夜が逆転した初来日に「まだ、体が慣れない」。照れるように目をこすりながら、ひとつの質問にできるかぎりのことを答えようとする。
デビュー作がまたたく間に“世界の話題作”となったわけだが、撮影監督としての現場経験は長く、浮かれたようすはない。
アルバムの総売り上げが2200万枚を超えるブラジルの兄弟デュオ、ゼゼ・ヂ・カマルゴ&ルシアーノと彼らを支え続けた父、フランシスコとの愛情と絆を描く。
「最初はゼゼ・ヂ・カマルゴ&ルシアーノを宣伝するような映画としての依頼だったので断った。都会的なイメージの音楽に親近感がわかなかった。ところが(ゼゼらの父親の)フランシスコに会って、話しているうちに感銘を受けた。ゼゼのフィルムではなく、父親を通しての真実の物語を撮りたいと思った。結果としてゼゼを知らない人でも共感でき、すべての人に向けた素晴らしい家族の話にすることができた」
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(c)2005 Conspiracao Filmes Entretenimento Ltda |
家族愛にこだわった。物語も、ミロズマル(ゼゼ)と2番目の弟、エミヴァルの少年期に時間ののほとんどを割いた。
幼い兄弟は貧しい家族を救うため、バスターミナルで歌い始める。やがて、エージェントから声がかかる。地方ツアーをこなすなかでたくましく成長する2人。が、思いがけない悲劇が待ち受ける。
「父、フランシスコの夢は男の子を2人授かって、有名にさせることだった。その後、次から次へと生まれ7人兄弟にもなるのですが。彼は財産すべてを投げ打ち、ミロズマルにアコーディオン、エミヴァルにギターを与え、音楽で父としての力を伝えた。フランシスコは子供たちの夢を自分の夢にもしたのです」
過剰な子供への期待は危険とも話すが、「彼らには身近に父親がいた。これはとても重要なことで、子供たちにとって存在が大きかった。私自身、2人の娘の父親ですが、時間的、距離的に離れて暮らすのはよくない」と家族の在り方について持論を披露した。
製作にあたってゼゼらの両親、とりわけ母親のエレーナと多くを語った。「(物語に登場する人たちは)今も生きている方々が大半で、できるかぎり忠実に再現したかった。何が起きたかだけでなく、何を考えたかに気を遣った。エレーナさんには、息子が亡くなったときに何を言葉にしたのかまで思い出してもらった」
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(c)2005 Conspiracao Filmes Entretenimento Ltda |
ミロズマルとエミヴァルには、まったく演技経験のない少年2人が選ばれた。「プロの子役よりも、地方で暮らし、音楽に親しんでいる子供がよかった」。そんなキャスティングは奏功する。
ミロズマル役に抜擢されたダブリオ・モレイラは昔のミロズマル同様アコーディオンが弾けなかったが20日で演奏できるまでに上達。製作陣をうならせた。
また、初めての演技に対してブレノ監督は「4カ月間、俳優とともに現地に住み込み、生活様式に慣れた。だからこそ俳優たちは土地への敬意が生まれ、自然な演技につながったのだと思う」と説明する。
苦労と言えば、陽気で人なつっこい国民性も悩みの種になった。
「フランシスコ一家を知る人たちが集まってきてはそれぞれに思い出を語り始めるものだから、(忠実な物語に)茶々が入り、しばしば撮影が中断することもあり、俳優らが怒り出す始末でした」
親の威厳が軽くなる現代社会ではまさに希望のような物語だ。冒頭にその予感を感じた。数分の映像だが、7人の子供を次々と授かり喜びがはちきれそうな母、エレーナの躍動感は印象的だ。
実際のゼゼ・ヂ・カマルゴ&ルシアーノのサンパウロ公演のもようがエンディングを飾る。ステージにフランシスコとエレーナが予告もなく現れる。ブレノ監督が仕込んだ。ゼゼ本人らはあまりの驚きと感動に歌うことすらままならない。
4人が抱き合う姿に、それまでの物語が自然とたどりつく。ブレノ監督がフィルムに焼き付けた一家の姿には、間違いはなかったということだ。