「ある日突然、としか言いようがないですね」
夫の実家の島根で育児に明け暮れていた。当時29歳。
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脚本家・渡辺あや |
「2年ぐらいずっと、赤ちゃんと2人でほとんどひきこもった生活をしていたら、田舎ですから、あまりにも退屈で…自分で物語でも想像してみないと面白いことがなさすぎて、映画を見るような感じで勝手に妄想を働かせるようになったんです」
そこまでなら夢見がちな少女の延長だが、彼女はそこからがタダ者ではなかった。
「妄想とはいえ、キャラクターがしっかりしないといけないし、ストーリーも自分が納得のいくリアリティーをもっていないと面白くないんですよ。私自身が楽しめない」
育児をしながら「一生懸命考えた妄想」を、パソコンに打ち込む日々。できあがったら、脚本になっていた。
試しに岩井俊二監督が主宰するサイトの応募コーナーに投稿した。その脚本を「そこそこいい」と認めたのが、3年後に彼女の脚本家デビュー作「ジョゼと虎と魚たち」を製作することになるプロデューサーだった。
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あとはトントン拍子というわけではなかったが、続いて「メゾン・ド・ヒミコ」の仕事がきた。これまた評判は上々。そして早くも今月末には3作目「天然コケッコー」が公開される。
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「天然コケッコー」の完成披露試写会で。左端が渡辺さん |
島根の田舎を舞台に思春期の少女の日常を描いた、くらもちふさこの同名漫画が原作。作者が子供のころ、夏休みなどに島根の母の実家で過ごした記憶を手がかりに書いた傑作漫画だ。
その島根で今、渡辺は暮らしているが、実は10代のころから「まるで恋にうかされるかのように」読みふけってきたのが、くらもちふさこの漫画世界だった。だから「天然?」映画化と聞き、「できれば脚本で、ダメならロケ地のボランティアスタッフでもいいから、必ず必ず、参加したいと、先生あてに渾身(こんしん)の力を込めてファンレターを書きました」。
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脚本は、原作のセリフをほとんど残す形で構成した。「ものすごく完成度の高い原作」だから、「エッセンスを抜きだして一番いい形で映像に移す」ことに腐心した。「『本当によかったですよ』という一言を、先生は何度も何度も言ってくださいました」と、確かな手応えをつかんだ様子だ。
自己流で書き始めた素人が、今や引く手あまた人気脚本家に。きっかけは、育児中の退屈しのぎ(?)だった。「でも、自分が見ている頭の中の映像とか人の動きを自分で思うように映像化したらどうなるのかなという興味は、いつもあるんです」
ならば、次なるは監督業。