独政府、米新興宗教「サイエントロジー」の信者に懸念
米映画「ヒトラー暗殺計画」暗礁 原因は主演、トム・クルーズ
東京朝刊
【ベルリン=黒沢潤】第二次大戦末期にヒトラー暗殺計画を企てたドイツ軍将校、クラウス・フォン・シュタウフェンベルク大佐に焦点を当てた米映画「ワルキューレ」(来年公開予定)が独連邦軍施設内での撮影許可を得られず、立ち往生している。大佐役を演じる米人気俳優、トム・クルーズが米新興宗教「サイエントロジー」の信者であることが原因だ。
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左から順に米映画「ワルキューレ」で大佐役を演じるトム・クルーズ、ドイツ軍将校のシュタウフェンベルク大佐、その長男であるベアトルド氏(AP) |
映画会社側はすでに、関係機関から軍施設での撮影許可を得たが、肝心の国防省は「撮影は望ましくない」と言明している。最終許可権限を持つ財務省も「軍施設以外で撮影を」と丁重に断った。
サイエントロジーは社会に受け入れられている米国とは異なり、ドイツでは「金稼ぎのカルト集団」(独誌)とみなされ、1970年代以降、政府の監視対象にされてきた。背景には、独社会がナチズムや共産主義を経験した歴史的経緯から、“特異なイデオロギー”に敏感だとの事情がある。
今回の措置には賛否両論が巻き起こっている。ドイツの共同製作会社会長は「ユダヤ系の(シンガー)監督はナチス体制下で英雄的な抵抗活動をした人間を描きたかっただけだ。クルーズの能力と個人的信条は切り離すべきだ」と強調する。独映画界も480万ユーロ(約8億円)を助成すると発表し、独国内での撮影実施を呼びかけた。
ただ独国内では一般的に、拒否反応が強い。ドイツの著名記者、ヨーゼフ・ヨッフェ氏は米紙に対し、「ドイツ人にとって大佐はリンカーンとジェファソン(米元大統領)を一緒にしたような存在だ。(今回の配役は裏切り者の)ユダにイエス役を演じさせるようなもので冒涜(ぼうとく)に近い」と指摘する。
大佐の長男ベアトルド氏(72)=独退役将校=も「サイエントロジーは宗教でなくビジネスだ。クルーズは父に指1本たりとも触れてはならない。映画が恐ろしく陳腐になる」と話している。
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■記事関連情報
ヒトラー暗殺未遂事件
1944年7月20日、シュタウフェンベルク大佐が東プロイセン総統司令部で行われた会議にブリーフケース爆弾を持ち込み爆破させ、約25人を死傷させた。ヒトラーは左腕などを負傷しただけで暗殺は失敗、大佐は処刑された。
サイエントロジー
米国のSF作家、ロン・ハバート氏が54年に創設。世界120カ国に800万人前後の信者がいるとされる。独国内での信者は推定約3万人。

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