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生真面目なカメレオン
映画「ドルフィンブルーフジ」俳優、松山ケンイチに聞く 
    東京朝刊 by  文・岡本耕治/写真・古厩正樹
映画「神童」ではピアノが大好きだが才能に恵まれない音大生、「男たちの大和/YAMATO」の年少兵・神尾、「DEATH NOTE」のL…。各作品でまったく違う人格を演じ、「カメレオン俳優」と呼ばれている。

「撮影中に『うわ、ずいぶんキツイ目をしてるな』なんて思うときがあります。役の作り方は、脚本を読み込むとか、似た雰囲気の映画を見てみるとか、毎回作品によって違う。『前の役とかぶってるね』と言われるのだけはいや。いろんな役を演じて常に変化していたい」

松山ケンイチ(撮影・古厩正樹)
松山ケンイチ(撮影・古厩正樹)

現在公開中の「ドルフィンブルーフジ、もういちど宙(そら)へ」では尾びれに障害を持つイルカを世話する獣医・一也役を演じている。

物語は、難病のため、尾びれの大半を切除したイルカの「フジ」が、人工尾びれを装着して再び泳げるようになったという実話に基づいている。沖縄の美(ちゅ)ら海水族館のフジを実際に出演させて撮影された。

「イルカの手触りは、まるでゴム。すごくやさしい目をしていて、一緒にいるだけで癒やされるんだけれど、イルカが本当は何を考えているかなんて分からない。お互いの距離をどう縮めればいいのか不安だった」

最初は尾びれを見ないとフジを他のイルカと識別できなかったが、撮影が進むうち、すぐに見分けられるようになった。

公開中の「ドルフィンブルーフジ、もう一度宙へ」
「撮影中にストレスでイライラすると、フジがそばにいてくれるんですよ。すると、つい笑顔になっちゃう。ぼくはフジを結構頼ってるな、と気づいたらフジにどんどん近づけるようになった」

危ういほどにまっすぐな青年・一也が、人工尾びれを開発するプロジェクトを通じて、フジや仲間たちに心を開き、成長していく様を、ていねいに演じた。

毎回、登場人物に徹底的に没入するため、自分自身の人格が役柄に少しずつ影響を受けてしまう。

「下手をすると自分を見失ってしまうので、本来の自分に戻る作業がすごく大切。好きな映画を見たり、誰かに自分のことを話したりして、役を“落とす”ようにしています」

そういいながら今挑戦しているのは、「体を柔らかくすること」。

「ぼくは恐ろしいほど体が硬くて、振り返るシーンで何度やっても体ごと動いてしまうし、アクションシーンもなかなかうまくいかない。毎日柔軟体操をしているんですが、一向に柔らかくなりません」とため息をつく。どこまでも俳優である。

自分をまだ分からない
「神童」の木訥(ぼくとつ)とした和音(ワオ)、「DEATH NOTE」の沈着冷静な天才L、「ドルフィンブルー」のまっすぐすぎて余裕のない一也…。実際に会った松山ケンイチは、そのどれにも似ておらず、出身地青森のイントネーションが残る言葉で熱心に演技を語る青年だった。

「本当の松山ケンイチはどんな人物か」とたずねると、「世の中で一番分からないのが自分自身」という。

「インタビューを受けるたびに言うことが変わってしまう。でも、そういう自分の矛盾を受け入れられる強さがほしい」

矛盾という名の多面性、引き出しの多さこそが彼の演技の原動力なのかもしれない。

マネージャーは宝
マネージャーを務める高梨卓也さん(撮影・古厩正樹)
マネージャーを務める高梨卓也さん(撮影・古厩正樹)
「何か思い入れのあるものを教えて」とお願いしたところ、松山が選んだのは3年間にわたってマネジャーを務める高梨卓也さん(32)。

「高梨さんはぼくの代わりに履歴書を書いて、就職活動をしてくれているようなもの。ぼくを完全に理解してくれている」と全幅の信頼を置く。

高梨さんは「ありがたいです」といいながらも戸惑った様子。俳優・松山ケンイチの魅力について「彼は常に真剣で命がけの役者。だからこれだけ高い評価を得られたんだと思う」と話す。

松山から信頼される理由については「何でも徹底的に議論を重ねてきたことがよかったのかな」。

取材を受けながら2人は「(取材が)どんだけ恥ずかしいか分かった?」「うるさいなー」とふざけあっていた。

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記事関連情報
松山ケンイチ
まつやま・けんいち 昭和60年、青森県出身。平成13年、ホリプロなどの企画による「New Style Audition」でグランプリを受賞し、モデルとなる。14年、「アカルイミライ」で映画デビューを果たし、「男たちの大和/YAMATO」で日本アカデミー新人賞、「DEATH NOTE」で同優秀助演男優賞を受賞。今後も「椿三十郎」「人のセックスを笑うな」「スピンオフL(仮題)」などの公開が控えている。


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