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映画「リトル・チルドレン」大人になりきれない大人をシニカルに
トッド・フィールド監督に聞く
    東京朝刊 by 岡田敏一
1組の男女の不倫を軸に、一見平凡に見える人々が抱える屈折したコンプレックスや心の裏側を滑稽(こっけい)に暴き出す「リトル・チルドレン」(28日公開)は、風変わりでシニカルなのに、人間を温かい視点で描き切った型破りな傑作だ。脚本・製作を兼ねた知性派トッド・フィールド監督は「究極の人間の感情を表現したかった」などと製作意図を語った。

風変わりではあるが人間を温かい視点で描いた「リトル・チルドレン」
風変わりではあるが人間を温かい視点で描いた「リトル・チルドレン」

舞台は米ボストン郊外の中産階級が住む住宅街。転居してきて間もない主婦サラ(ケイト・ウィンスレット)は3歳の娘と“公園デビュー”するも他の子連れ主婦たちになじめない。そこにセクシーな弁護士志望の主夫ブラッド(パトリック・ウィルソン)が息子を連れて現れる。暇を持て余す主婦連中の憧(あこが)れの対象である彼とサラは一目でひかれ合う。

トッド・フィールド監督
サラの夫は会社経営者だがアダルトサイトのとりこ。ブラッドは妻(ジェニファー・コネリー)が才色兼備のドキュメンタリー映像作家で、自分が無職という夫婦生活を窮屈に思っている。

2人はどんどん親密になるが、そんななか、幼児専門の元性犯罪者ロニーが街に舞い戻る。ブラッドの友人の元警官ラリーは、老いた母と2人暮らしのロニーの家に深夜押しかけるなど、執拗(しつよう)な嫌がらせを繰り返すのだが…。

脚本の巧みさや心理描写の上手さ、語り口の鮮やかさ、せりふの妙、独特の滑稽さなど、多くの要素が絶妙に絡み合いながら物語は進み、後半、怒涛(どとう)の展開になだれこむ。

登場人物に向けられたまなざしは温かい。「ベストセラー小説である原作に忠実な作品づくりに努めた。皮肉とメロドラマという究極の人間の感情を表現したかったんだ」とフィールド監督。

激しい性的描写もあるが、それらが人間の本質をリアルに描く。タイトルは、ないものねだりを繰り返す“大人になり切れない大人たち”の意。今年のアカデミー賞では脚色賞や主演女優賞(ウィンスレット)など3部門で候補となった。作品賞の候補に入らなかったのが不思議なほど。

「過小評価? そう言ってもらえるとうれしいよ。『ディパーテッド』の作品賞は変? それよりマーティン・スコセッシ監督が『レイジング・ブル』(80年)で監督賞をとらなかった方がおかしいと思わないか?」と笑わせる。

映画と真摯(しんし)に向き合う。「映画鑑賞という行為は、他人と同じ悩みや欠点を共有し、共感を得ることだと思うんだ。そうして他人とのつながりを発見する…」

自作をなかなか素直に見られないという。「(アカデミー賞5部門で候補になった)前作『イン・ザ・ベッドルーム』(01年)も観客の立場で見られるようになったのは最近だよ。『リトル−』は偏見も先入観もあって、まだまだ観客として素直に反応できないな(笑)」。人間の愚かさを肯定する繊細で力強い物語づくりは、生真面目(きまじめ)さゆえだろうか。

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