撮影中も24人が命絶つ
自殺の名所を定点観測 映画「ブリッジ」スティール監督に聞く
東京朝刊 by 岡田敏一
世界的な観光名所として知られるサンフランシスコの金門橋(ゴールデンゲート・ブリッジ)が、じつは自殺の名所であることはあまり知られていない。1937年の開通以来、約1300人が橋から飛び降りて命を絶った。映画「ブリッジ」(公開中)は、エリック・スティール監督が約1年間、この橋を定点観測し、自殺者とその家族を丹念に取材した異色のドキュメンタリーだ。
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エリック・スティール監督(撮影・岡田敏一) |
製作のきっかけは雑誌の記事だった。「約4年前に自殺を題材にした記事を読んで衝撃を受けたんです」
キリスト教は自殺を厳しく戒めており、欧米では「タブーに近い題材」だったが、監督は「白昼堂々、米の記念碑的な場所で自らの命を絶つという行為と、その瞬間をカメラでとらえたいという衝動に駆られた。多くの人々が目を背ける心の闇を白日の下にさらしたかった」と振り返る。
2004年のはじめから約1年間、金門橋の2カ所に計4台のカメラを設置し、連日、日の出前から日没後まで撮影を続けた。撮影中に自殺しようとしている人を見かけたときはすぐ警察に連絡した。「結局、24人が命を落としましたが、6人は助けられました」
完成した作品は「私が見たものをそのまま見てもらいたい」という趣旨の通り、スローモーションや早回しのような演出も、ナレーションも使っていない。6人の自殺者と彼らの家族や知人の証言を93分間にわたり淡々とつづっている。
米では昨年に公開された当初「自殺をセンセーショナルに扱っている」と批判する報道が目立った。しかし真摯(しんし)なアプローチは「美しく、そして心かき乱される作品」(米ロサンゼルス・タイムズ)などと批評家筋に高く評価された。
いま、日本では年間約3万2000人、米では約3万5000人が自ら命を絶っている。観た人はきっと、命の重さについて考えさせられるだろう。監督は静かにこう話した。
「この作品はみなさんへの問いかけです。決して答えを押し付けるものではありません」
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