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「ボルベール<帰郷>」
主演、ペネロペ・クルス 伸びやかに美しく
    東京朝刊 by 岡田敏一
スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督が、故郷のラ・マンチャ地方を舞台に母、娘、孫娘という女性三代の物語を描く「ボルベール〈帰郷〉」(30日から公開)。昨年のカンヌ国際映画祭では主演のペネロペ・クルスら出演女優6人全員が最優秀女優賞を獲得。さらにクルスは今年のアカデミー賞で主演女優賞の候補になるなど、女優陣の伸びやかで冗舌な演技が見どころの佳作だ。

ペネロペ・クルス(右)の演技が素晴らしい「ボルベール<帰郷>」
ペネロペ・クルス(右)の演技が素晴らしい「ボルベール<帰郷>」

主人公ライムンダ(クルス)の15歳の娘パウラ(ヨアンナ・コバ)がある日、関係を迫ってきた義父(ライムンダの夫)を刺殺する。ライムンダは死体を自分が働くレストランの冷蔵庫に隠す。

そんなとき、最愛の伯母が亡くなり、葬儀でラ・マンチャに戻った彼女は、死んだはずの母イレネ(カルメン・マウラ)が生きていると知らされる。ライムンダは10代のころ、母に反発して家出、そのまま分かり合うことなく両親は火事で亡くなったとされていたのだが…。

時折ユーモアも交えながら軽やかに進む人間ドラマに、暗さや重々しさは感じられない。楽天的でおおらか。母の無償の愛やその深さといった普遍的な題材を扱いながら、感動の押し売りはせず、飄々(ひょうひょう)とした語り口が貫かれる。

クルスのスペイン映画への出演は「オール・アバウト・マイ・マザー」(98年)以来だが、同作も監督はアルモドバル。旧知の仲ということもあってか、本作での彼女の演技は、これまで出演したハリウッド映画とは比較にならない素晴らしさだ。

死体を隠した冷蔵庫があるレストランで働くライムンダ。たまたま近くで撮影していた映画スタッフがその美貌(びぼう)に惹(ひ)かれ、撮影期間中の仕出しを彼女に頼む。

その撮影の打ち上げパーティーで彼女がタンゴの名曲「ボルベール」を熱唱する。歌手志望だった彼女に伯母が教えた歌だ。

「♪再び出会うことへの恐れ/忘れたはずの過去が蘇り/私の人生と対峙(たいじ)する/人の命はつかのまの花…」

母への思いが歌に重なる。その様子を遠くの車中からこっそり見守る母。2人が再会を果たすに至るこの一連の場面は感動的だ。

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