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彼の十八番の群像劇
「今宵、フィッツジェラルド劇場で」名匠ロバート・アルトマン最後の佳作
   東京朝刊 by 岡田敏一
「今宵、フィッツジェラルド劇場で」(3日公開)は、昨年11月に81歳で亡くなった巨匠ロバート・アルトマンの遺作。群像劇の大家で反骨精神に富む彼が自らの死を悟り、死と向き合いながら作りあげた佳作だ。大勢の登場人物がからむ錯綜(さくそう)した物語がひとつに収斂される彼の十八番(おはこ)の群像劇と同様、本作で自身の映画人生を見事に締めくくっている。

物語は、米の人気ラジオ番組「プレイリー・ホーム・コンパニオン」の最終回の公開録音の舞台裏を軽妙に描く。会場は米ミネソタ州セントポールのフィッツジェラルド劇場。番組はさまざまな歌手の生演奏を公開生放送する形式で約30年間親しまれてきたが、テキサスの大企業がラジオ局を買収することになり、番組が終了するのだ。

ベテランの姉妹カントリー歌手(メリル・ストリープ、リリー・トムリン)やカウボーイ歌手コンビ(ウディ・ハレルソン、ジョン・C・ライリー)ら出演者をはじめ、保安係(ケヴィン・クライン)、司会者(ギャリソン・キーラー)らが楽屋で雑談しながら準備を進める。そこにトレンチコート姿の美女(ヴァージニア・マドセン)が現れ、「定めの時と霊を心に受け入れれば、この世を生きる支えになる」と謎めいた言葉を残す。

ショーが始まるが、ゲスト歌手(L・Q・ジョーンズ)が楽屋で亡くなる。驚く司会者に再び現れた謎の美女が「私は天使。老人の死は悲劇ではない」。ステージは淡々と進む…。

彼の名作「ナッシュビル」(1975年)を思い起こさせる素晴らしい作風に加え、反骨精神も健在だ。全米のほとんどのラジオ局を支配下に収め、各局の地域性などを奪ったテキサスの大手クリアチャンネル。その弊害をうまく描き出している。

昨夏、前任地ロサンゼルスで本作を見てアルトマンに死期が近づいていると感じ、本作のDVDも購入した。実際、撮影の際には、不測の事態に備え、一番弟子ポール・トーマス・アンダーソン監督が待機したという。彼の訃報(ふほう)に接し、自宅でDVDを見た。遺作としては文句の付けようがないと感心してしまった…。

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