1970年代、反体制派の国民約30万人を虐殺したウガンダの独裁者、アミン元大統領と、彼の主治医兼側近となる若いスコットランド人医師が繰り広げる緊迫した人間ドラマを描く「ラストキング・オブ・スコットランド」(ケヴィン・マクドナルド監督)が10日から公開される。先月、米アカデミー賞主演男優賞を受賞するなど映画賞を総ナメにしたアミン役のフォレスト・ウィテカーの熱演が光る佳作だ。
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映画「ラストキング・オブ・スコットランド」 |
医療活動のためウガンダにやってきた若きスコットランド人医師ニコラス(ジェームズ・マカヴォイ)。軍事クーデターを成功させ、新大統領に就任したばかりのアミン(ウィテカー)が、民衆に向かってウガンダの明るい未来を力強く訴える姿にひかれる。その帰り道、大統領の車が事故を起こし、現場に出くわしたニコラスはアミンの手当てをする。
以前からスコットランドに親近感を抱いていたアミンは、ニコラスの出身を知ると、親愛の印として互いのTシャツを交換しようと申し出る。気さくな人柄に魅せられたニコラスはアミンの主治医になることを快諾するが、やがて政権の重要政策事項にまで口をはさむ“側近”になる。
だが、ニコラスが知らぬ間に、反体制派に対する粛清と虐殺の嵐が吹き荒れていた。狂った方向に進んでいることに気づいたニコラスは故郷に逃げ帰ろうとするが…。
原作は、98年発表の同名小説。アミンに有能な側近(元英兵)やスコットランド人の主治医が存在したことをヒントに描かれたベストセラーを映画化した。
マクドナルドは、72年のミュンヘン五輪でのテロを描いた「ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実」(99年)でアカデミー賞ドキュメンタリー長編賞を獲得した実力派で知られる。ちなみにこの作品は、スティーブン・スピルバーグ監督の「ミュンヘン」(2005年)にヒントを与えたともいわれる。
そんなマクドナルドだけに、事実とフィクションを巧みに織り交ぜ、リアリティーに満ちたアミン像を作り上げた。何と言っても印象的なのは、虐殺場面をまったく登場させず、こまやかな心理描写を積み重ねることで精神が徐々に崩壊していくアミンと、権力に近付き過ぎたため自滅する男の哀れな末路を淡々と描いたことだ。
クリント・イーストウッド監督の「バード」(88年)で伝説的なジャズ演奏家、チャーリー・パーカーを熱演してカンヌ国際映画祭男優賞を獲得したウィテカー。本作では、愛嬌(あいきょう)ある魅力的な指導者だったアミンが強迫観念と被害妄想に取りつかれ、脅しと泣き落としを使い分けて側近を服従させる狂気の独裁者に変貌(へんぼう)していく様を見事に演じ切った。彼の熱演が本作をシェークスピア悲劇のごときユニークな政治サスペンスに仕立て上げたといえるだろう。