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ハリウッドの娯楽大作押しのけ、口コミで人気に
映画「ONCE ダブリンの街角で」音楽で語り合う恋愛
2007/11/02 産経新聞    東京朝刊 by 岡田敏一
大ヒットシリーズの続編や豪華出演陣がそろった娯楽大作を押しのけ、低予算の地味な音楽映画が米国で異例の高評価を獲得している。ストリートミュージシャンの男性と東欧からの移民の女性とのほろ苦い恋愛を描いたアイルランド映画「ONCE ダブリンの街角で」(ジョン・カーニー監督)。映画に登場する楽曲を収めたサウンドトラック盤まで大ヒットとなるなど、ハリウッドの話題を独占中の作品が3日、日本でも公開される。

全く新しいタイプの音楽映画「ONCE ダブリンの街角で」。ドキュメンタリー・タッチの作風が新鮮な印象を与える
全く新しいタイプの音楽映画「ONCE ダブリンの街角で」。ドキュメンタリー・タッチの作風が新鮮な印象を与える

「ONCE−」は製作費わずか約15万ドル(約1700万円)の独立系作品。米国では5月16日、たった2館で上映が始まったが、口コミで評判が広まり、結局、約140館での公開に拡大した。全米の主要紙や雑誌の映画評を集計する有名サイト「ロッテントマト」でも肯定的評価が全体の98%で、断トツの高評価を獲得。今年度のアカデミー賞に絡むのは確実といわれている。

ダブリンの街角で穴の空いたフォークギターを抱え、ヒット曲や自作の歌を熱唱するストリートミュージシャンの男(グレン・ハンサード)。別れた彼女に未練タラタラの彼は、老いた父が経営する電気店の手伝いをしながらプロデビューをめざしている。そんな彼の熱唱ぶりを楽しげに眺める女性(マルケタ・イルグロヴァ)がいた。彼女はチェコからの移民で、複雑な家庭環境で育ったピアノ奏者。夫を母国に残し、母と幼い娘との3人で家政婦や路上での花売りをしながら貧乏生活を続けている。そんな2人が音楽を通じて心を通わせ、恋に落ちるが…。

主役を演じるハンサードはアイルランドの人気ロックバンド「ザ・フレイムス」のボーカル兼ギター担当。またイルグロヴァはハンサードが発掘したチェコ・プラハのシンガー・ソングライターだ。

2人とも俳優ではなくミュージシャンだけに、演奏場面での“饒舌(じょうぜつ)さ”が光る。楽曲もすべて本作のための書き下ろしだが、「映画であることを意識せず普段通りの曲作りに務めた。演技もしてないよ。自然体さ」とハンサード。

イルグロヴァも「演技の経験はゼロでしたが、感情の置き換え作業の要領を理解し、即興の中で自分なりの良さを表現するよう努力したら、泣いたり笑ったりといった演技が自然にこなせるようになった」と振り返る。

2人が楽器屋を訪れ、男が書いた楽曲をギターとピアノで初めて共演する場面の初々しさ。彼女の真意が分からず戸惑い始める彼…。素直に口に出せない思いや葛藤(かっとう)、心の叫びが2人のさまざまな楽曲に乗せて語られる。

こう書くとありふれたミュージカル映画のようだが、作風は全く違う。「恋人たちが歌詞を通して心を通わせる。真の対話は音楽」(米タイム・アウト誌)であり、「(普通の)ミュージカルを嫌う人々のためのミュージカル作品」(米マキシム誌)といえる。

終盤、彼が彼女に見せる精いっぱいの、しかし不器用で控えめな男らしさが心に染みる。音楽を心底愛するナイーブで心の優しい人が無心で紡ぎあげた素晴らしい作品だ。

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