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名作「あしたのジョー」のようなスポ魂劇画
「4分間のピアニスト」堀の中の痛快“狂騒曲”
2007/11/09 産経新聞    東京朝刊 by 岡田敏一
ピアノ奏者を題材にした、ありがちな感動作と思ったら大間違い。久々に登場した型破りで破天荒な作風に爽快(そうかい)な気分にさせられた。10日公開の独映画「4分間のピアニスト」(監督・脚本=クリス・クラウス)。かの名作「あしたのジョー」のピアノ版とでも呼べそうなスポ魂劇画ばりの展開は、映画館で1800円払って十分おつりが来る痛快作だ。

型破りで破天荒な作風が魅力の独映画「4分間のピアニスト」
型破りで破天荒な作風が魅力の独映画「4分間のピアニスト」

舞台は独の女子刑務所。そこに1人の老いた女性ピアノ教師(モニカ・ブライブトロイ)がグランドピアノとともにやってくる。囚人への情操教育の一環なのだが、彼女は、オンボロ机を鍵盤に見立ててピアノを弾くマネをする囚人の少女、ジェニー(ハンナー・ヘルツシュプルング)と出会う。

その指さばきにずば抜けた才能を感じた教師は、刑務所長に「彼女がオペラ座で開催される新人コンテストで優勝すれば、あなたの経歴にハクが付く」と説得し、少女に特別指導を始める…。

この2人、互いに壮絶な過去がある。教師は同性愛者で生涯愛した女性に先立たれたため、独身を貫き音楽にすべてを捧げた。少女はクラシック音楽好きの養父に幼少期から英才教育を受けたが、その養父から性的虐待を受け、そのせいで罪を背負うことになったのだ。

2人の練習場面は、「立つんだジョー!」の世界そのまま。看守をぶちのめして血まみれにするようなすさまじい荒れ方のジェニーに、表情一つ変えず悠然と指導する教師。

女子刑務所に天才ピアノ奏者がいるとの噂を聞きつけ、新聞記者がやってくる。後ろ手の手錠姿で驚異の演奏を披露するジェニー。ところが教師は少女を褒めるどころか思いっきり平手打ちを食らわせる。  

「クラシック音楽じゃない!。ポップスなんか弾きやがって!」

全編こんな調子。看守や仲間の嫌がらせ、2人の突然の不和といったお約束の展開も。感動している暇がない。終盤、教師は自分の過去をまとめたファイルを手渡す。「これ読んで」。少女はファイルをビリビリに破り、その紙切れを教師に差し出し「お前、これ食え!」。

ラストのコンテストで、少女がみせるパフォーマンスはほとんどパンク・ロッカー。今年の独アカデミー賞で作品賞と主演女優賞(ブライブトロイ)を獲得したのも当然だろう。

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