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“日本一泣ける4コマ漫画”映画化
映画「自虐の詩」幸せとは絶対的なもの
2007/10/26     by 久保亮子
幸せってなんだろう。

このところ、「勝ち組負け組」とか物事には常に境界線が引かれ、人は自分の幸せや未来を、他人のそれと比較してはかろうとしたがるけれど、幸せって−。

そんな疑問に直球で挑むのが、この映画だ。原作は業田良家の同名4コマ漫画。

舞台は大阪・通天閣にある下町。薄幸のヒロイン、幸江(中谷美紀)と、幸江が愛してやまないやくざ者のイサオ(阿部寛)との日常を描く。


幸江は宮城県の気仙沼で生まれた。幼いころに母親は家出し、父親の家康(西田敏行)は愛人(名取裕子)と新婚旅行にいくために銀行を襲撃して逮捕される。幸江は、天涯孤独の身で大阪に出てきた。

中学生の幸江は新聞配達と内職で家計を助ける。弁当は白米と梅干だけ。「幸せになれますように」と神社で祈れば、境内の鈴が落下する始末。ただひとりの友だちは、幸江と匹敵するほどの貧乏育ちの熊本さん。

だが、どうしてか、そんな幸江に励まされるのだ。幸江は常に『幸せってなんだろう』と問う。“今ではない状態”が幸せだろう、とひたすらに生きる。

中学卒業と同時に出てきた大阪で、幸江はヤクザのイサオと出会う。イサオに心から愛される幸江の不幸は一気に消滅する。幸江は愛される、ただそれだけで人生が満ち足りる。

「幸や不幸はもういい。人生には意味がある」。

幸江を演じる中谷は、原作漫画でみつけたこんなくだりに励まされたという。幸も不幸も決めるのは自分であり、それ以上に生きていることには深い意味がある。そんなことを幸江は、体で覚えたのだろう。

おそらく、観る人のほとんどが幸江より“幸せの領域”に立っているはずだ。しかし、肝心なのは幸江は決して不幸ではない、ということ。あるいはイサオと暮らす毎日は、相対的ではない、絶対的な幸せなのだといってもいいかもしれない。

幸福がぼやけている今の私たちは、これくらい強烈でなければ目が覚めないのかもしれない。

中谷、阿部はそれぞれ、監督の堤幸彦とは「ケイゾク」「トリック」でタッグを組んだこともある。

中谷は昨年も「嫌われ松子の一生」で不幸の極みを背負うような女性、松子を演じたが、今回もあの端整な顔立ちが崩壊しそうなほどの演技をみせる。癇癪(かんしゃく)を起こしたイサオがちゃぶ台をひっくり返す場面だ。CGとスローモーションを駆使した映像のなかで幸江の愛の手料理が部屋中に飛び散る。この際、幸江がすさまじい形相で、いかにも惜しそうに最後までおかずを追いかける。この場面は必見だ。

阿部も三白眼にパンチパーマ姿。新境地かもしれない。



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