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“きれいすぎない”写り方
缶や箱で手作り「懐古カメラ」 写真に温かみ
  東京朝刊 by 海老沢類
簡素な作りで機能も限られたピンホール(針穴)カメラやトイカメラを手にする人が増えている。写真の鮮明さはデジタルに劣るが、柔らかい輪郭と隅が暗めに写る仕上がりにはアートの香りが漂う。高機能のデジタルカメラにはないアナログの魅力が人気の理由のようだ。

お手製のピンホールカメラで撮影する愛好者たち=横浜市中区
お手製のピンホールカメラで撮影する愛好者たち=横浜市中区

幅広い愛好者層
東京都内に住む派遣社員、遠藤志岐子(しきこ)さん(40)は、自転車通勤の途中で沿道の風景を撮影するのが日課だ。持ち歩くのは肝油ドロップの缶や印画紙の箱を改造して作ったピンホールカメラ。露出計や小型の三脚もかばんに入れ、光が弱い夕方なら、5分ほどカメラを固定して撮影する。

「デジタルカメラを使うと『普通にきれいに』撮れてしまって面白くない。どこか柔らかくて温かみがある写真を撮れるのが楽しい」。ピンホールカメラ歴は5年。いまや「国展」の写真部門に2年連続で入選する腕前だ。

遠藤志岐子さんがピンホールカメラで撮影した東京都江東区の風景
遠藤志岐子さんがピンホールカメラで撮影した東京都江東区の風景

ピンホールカメラの魅力を伝えている日本針穴写真協会(東京)の会員数は発足から2年で約350人にまで増えた。協会が先月29日、横浜市のみなとみらい地区で開いた撮影会には全国から約50人が集まった。「愛好者は20代から80代まで幅広い。カメラにほとんど触れたことがない若い女性の入会も多い」と前田靖宏・事務局長は話す。

時間を“ためる”
ピンホールカメラはいわば、カメラの原型。光が入らない箱に印画紙やフィルムなどの感光媒体を入れ、直径0・2ミリ程度の小さな穴を開けただけ。被写体に当たって反射した光を穴から箱の中に取り込み、画像として定着させる仕組みだ。解像度は高くないが、レンズを使わないため、手前から遠方まで同じ鮮明さで写る。

構造は単純でも奥は深い。フィルムから針穴までの距離で、広角や望遠の程度を調節できるし、横長の箱を使えばパノラマ撮影も可能だ。一方で、一度に多くの光を取り込めないため、通常のカメラよりもかなり長い露光時間が必要になる。「『時間を切り取る』通常のカメラと違って、ピンホールカメラは『流れている時間をためる』」(前田事務局長)といわれるゆえんだ。

前田事務局長は「自分で作れば写真の原理を学べるし、工夫次第で普通のカメラでは撮れない写真が撮れる。水墨画のような仕上がりも日本人の感性に合っている」と話す。

ポップさ受ける
機能が限られたトイカメラも人気だ。レンズ付きだが、その名の通りプラスチック製で簡素な作りのものが多い。

東京都渋谷区の「渋谷ロフト」は先月下旬、1階入り口付近に専用売り場を設置した。中国製の「HOLGA」など4000〜1万円程度のものを中心に数十種類が並び、多い日には30点以上が売れる。客層は20代の女性が中心で気軽に渡せるプレゼントとしても好評という。

デザイン文具売り場担当の佐竹絵美さんは「形や包装がポップでかわいい。画像の鮮明さではデジタルに劣るけれど、絵を描くイメージでアート風な写真を撮れる点が受けているのでは」と話した。



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