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森見・万城目作品の魅力に迫る
京都・奈良が舞台 “古都ファンタジー”ベストセラーに
  東京朝刊 by 上塚真由
関西出身の2人の気鋭作家が、京都、奈良を舞台にしたエンターテインメント小説を次々と出版し、ベストセラーとなっている。関西人特有のユーモアで、奇想に満ちた物語を展開していく。近年は空前のお笑いブームだが、小説の分野でも西の勢いは増しているようだ。

[左]森見登美彦さん [右]万城目学さん
[左]森見登美彦さん [右]万城目学さん

全国の書店員が選ぶ「本屋大賞」。第4回の今年は上位10冊のなかに、京都の大学生活を描いた小説が2作入った。惜しくも次点だったのが、森見登美彦さん(28)の『夜は短し歩けよ乙女』(角川書店)。もう1作は6位の万城目学さん(31)の『鴨川ホルモー』(産業編集センター)だ。森見さんの作品は14万部、万城目さんは10万部という人気だ。

京都の大学生活描く
同年代の2人の作家はともに京大卒。森見さんは奈良県出身で、同大学院農学研究科在学中の平成15年、妄想する京大生の日常を描いた『太陽の塔』(新潮文庫)でファンタジーノベル賞を受賞しデビューした。以降、5作品すべて京大のある京都市左京区界隈(かいわい)を舞台にしている。

酒豪で“天然キャラ”の女子学生と、その女子学生に恋する不器用な男子学生の恋愛を描いた『夜は短し−』は、破天荒な学園祭、詭弁(きべん)論部という奇妙なサークル、神様が現れる古本市…と周辺で次々と起こる出来事のおかしさがクセになる。「僕自身はライフル射撃部だったし、学園祭にも行かなかった。こんな風だったらいいな、と理想を描いています」と森見さん。

独特の古めかしい文体が京都の街並みにほどよくなじみ、読者を不思議な作品世界に誘う。「純然たるファンタジーは苦手で日常から何かの拍子で奇想の世界に入るのが好み。京都の名所や地名は現実味を感じるので、リアリティーのない話を言葉の威力に頼っているところもあります」

最新刊『新釈 走れメロス』(祥伝社)では5つの近代文学を京都を舞台にして書き直すことに挑んだ。10作目までは“京都小説”を描く予定だ。

歴史取り込んだ万城目作品
一方の万城目さんは大阪府出身。大学卒業後、いったん就職したものの作家になる夢をあきらめられず退社、上京した。新人賞に落選する日々が約3年続き、オニたちを戦わせる奇妙な競技に熱中する京大生を描いた『鴨川ホルモー』で17年にボイルドエッグズ新人賞を受賞、念願のデビューを果たした。

4月に出版した2作目の『鹿男あをによし』(幻冬舎)も荒唐無稽(むけい)な物語。奈良の女子校に赴任した青年教諭が、奈良公園にいる鹿に命令され、日本の滅亡を防ぐために奮闘する。主人公の顔が鹿になっていったり、鼠や狐の使いが現れたりと、奇抜な設定が人気を呼び、7万部と好調な売れ行きだ。

万城目作品の特色は歴史の要素をうまく取り込んでいるところ。『鴨川−』では陰陽師(おんみょうじ)を、『鹿男−』は古代史を背景にする。「生きている人を横糸とすると、奈良や京都は縦糸の部分がいくらでもある。歴史的な要素を組み合わせると、物語が広がりやすい」と万城目さん。

「東京に住んでみて関西より数段、古都のイメージがよいことに気付きました。知名度抜群の古都は何十億円もかけたセットのようで、それを間借りして描いている気分です」。京都、奈良に続き、3作目は故郷の大阪を舞台にした小説を執筆するという。

大森望さん「ハリポタブームに似ている」
“古都ファンタジー”が広く読まれるのは、日本人のどこかに、京都や奈良に対するあこがれの気持ちがあるからだろう。そうした状況を、京大出身で文芸評論家の大森望さんは、「ハリー・ポッター」ブームに似ていると指摘する。

「米国人は、英国だったらあんな魔法の学校があるんじゃないかと不思議じゃない感覚で読める。同じように、京都や奈良だったらあり得そう、と読者に思わせる力がある」と話す。

そして、京都で大学生活を送った“下宿生”の視点が、作品に独特の雰囲気を生み出しているという。「京都では下宿生は“お客さん”。日常は意識しないけれど、何かの拍子に名所、旧跡に出合うという感覚がファンタジーに合っている」。古都の詩情に浸りきらない距離感も新鮮味を与えているようだ。



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