坂東玉三郎の存在は、現代歌舞伎界に咲いた奇跡のような“大輪の花”ではあるまいか。
南座で8回目を迎えた舞踊公演。玉三郎は歌舞伎の創始者、出雲の阿国にふんした「阿国歌舞伎夢華」と、女郎蜘蛛の精が美しい白拍子姿で現れる「蜘蛛の拍子舞」をつとめた。近年、この公演では「紀州道成寺」や「隅田川」のように高度な技芸を要する通好みな作品が多かったことを思えば、今回は両方ともビジュアル的にも華やか。玉三郎の光り輝くような美しさが際立った。
「阿国歌舞伎−」は平成16年東京の歌舞伎座で初演された新作。ひたすら幻想的で艶やかな舞踊絵巻の趣である。
女歌舞伎一座の女たち(笑三郎、春猿ら)を率いて登場した阿国(玉三郎)が、恋人の亡き名古屋山三(段治郎)の面影を追ううち、山三が現れ2人で仲睦まじく舞う。玉三郎、段治郎はともに長身で美形同士、ため息がもれるほどの絵面ではあるが、段治郎にもう少し濃密な色気がほしいところだ。やがて山三は幻のように消えてしまう。悲しみに崩れ落ちる阿国だが、再び彼女は立ち上がろうとする。
しかし玉三郎は芸の魂を信じてもう一度、自分の足で立ち上がろうとする阿国の姿を洗練された身のこなしと抑制された表情の中に浮かび上がらせる。それが玉三郎自身の姿と重なり合うのである。
玉三郎は、当時の風俗を思わせる衣装や髪型のなかに高い美意識で独自の工夫をこらし、すみずみまで神経の行き届いた舞台を作り上げた。男伊達の猿弥と弘太郎がキレのいい踊りぶり。
「蜘蛛の拍子舞」は、前半赤い振袖姿のたおやかな白拍子妻菊、後半は隈取りもおどろおどろしい女郎蜘蛛の精を鮮やかに踊り分けて古風な踊りをたっぷりと見せた。
妻菊、頼光(笑三郎)、貞光(薪車)の3人が踊る“拍子舞”では、それぞれがリズムにのっておもしろく踊り、3人の息もあった。
後半は蜘蛛の精と頼光、貞光、坂田金時(猿弥)も加わっての立ち回り。玉三郎の投げる千筋の糸が幻想的な美を醸しだし、一幅の絵を見るようであった。23日まで。