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他人の不幸に優しさも
時代を映すヒーロー・キャラクター 魅力は「弱さ」
  東京朝刊 by 竹中文
子供をメーンターゲットにしたテレビ番組のヒーローが最近、歴代のシリーズよりも弱さや短所を見せるキャラクターになってきた。ヒーローものは「世相の鏡」ともいわれる。今の時代の何を映しているのだろうか。

「親や先生など指導する立場の人による事件が相次ぐ今、子供たちは正義とは何かと迷っているように感じる。だから、上から物を言うような教え導くヒーローではなく弱い一面も持つ親しみやすさが必要になったのではないか」

ヒーローのキャラクターについて、こう話すのは、テレビ朝日系『仮面ライダー電王』の梶淳(かじ・あつし)プロデューサーだ。

昭和46年からスタートした初代『仮面ライダー』の主人公は変身前もスポーツ万能で頭脳明晰(めいせき)だったが、『電王』の主人公、野上良太郎は「シリーズ史上最弱」のヒーローで、女性に助けてもらったり、気絶したりと、弱々しい。ただ、他人の不幸に敏感に反応する優しさを持っている。

こんなヒーロー像に人気が集まり、これまでの平均視聴率は前作の仮面ライダーシリーズを0・3ポイント上回る8・0%に達した。テレビ朝日のホームページアクセスランキングでも常に上位をキープしており、読者からの応援メールも過去の作品に比べて多いという。

梶プロデューサーは、「自分が弱いから人の痛みがわかる。その優しさは今の世の中の最大の強さともいえる」と主張する。

テレビ朝日系『獣拳戦隊ゲキレンジャー』の主人公、漢堂ジャンもどこか抜けているキャラクターだ。八木征志(やぎ・せいじ)プロデューサーは「主人公は歴代で最も欠陥があるキャラクターにした。欠点を克服しようと思うから仲間と話し合う。それは、コミュニケーション能力が足りないといわれる今の時代に必要な要素だ」とする。

欠点のある主人公が成長していく物語は昭和54年に始まった『機動戦士ガンダム』の主人公、アムロ・レイが代表格で、パターンとして古くから存在するが、その延長線上にある最近の「弱さ」は、ひとつの持ち味として描かれるようになってきたともいえる。

NHK教育テレビで昨年4月から始まり、今年4月から夕方の放送時間枠を拡大して放送している悪者を改心させるヒーローものアニメ番組『ぜんまいざむらい』の主人公も弱い部分を持っている。この番組を制作している「アニプレックス」の小川容子さんは、「好きなお団子を食べ過ぎて太ってしまったときにダイエットに挑戦するなど現代にも通じる日常の身近な話題も盛り込んでいる。親しみが持てるヒーロー像が今の時代にはマッチしているようだ」と言う。

子供向け番組のヒーローは、常に、世相と密接な関係がある。

昭和33年に始まったテレビ番組『月光仮面』は、「憎むな、殺すな、許しましょう」の博愛主義の精神を持っていた。

高度経済成長期は、“スポ根”漫画『巨人の星』の星飛雄馬のように真面目に努力する姿に、多くの視聴者が共感した。

日本大学芸術学部映画学科の田島良一教授は、「今は助け合いの精神が薄れてきてしまった時代だから、自分の弱さを見せ、他者の弱さに共感できるようなヒーローが人気を集めるのだろう」としながらも「視聴者は常に対極の像を求める傾向にあるので、これからは今までとは違った強さを持つヒーローが登場するかもしれない」と分析する。

“駄目男”にばかり好意を持つ女性を主人公にした漫画『だめんず・うぉ〜か〜』の著者として知られる漫画家の倉田真由美さんは「おしるこに少しだけ塩を入れると甘さが引き立つように、完全無欠よりも、欠陥がある方が親しみやすい。つまり駄目な部分というのは魅力にもなり得る。ただ、ヒーローには、漫画『だめんず−』にでてくるような、周りに迷惑をかける極端な駄目男にはならないでほしい」と“注文”をつけた。



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