京友禅や松阪牛など、地名の入った名称を商標と認め、地域ブランドとして育成する「地域団体商標制度」が始まって1年。特許庁の審査の結果、これまでに213件が商標登録として認められた。その内訳をみれば京都と石川が上位を占め、歴史や伝統のある土地柄の強さを見せつける。一方、「丹波黒大豆」や「八丁味噌(みそ)」など、地域や業界間での調整がつかず、よく似た名前の申請が相次ぐケースも。消費者不在の“申請合戦”に専門家は「地域の発展につながらない」と苦言を呈する。
トップは京都
「地域団体商標制度」は昨年4月にスタートした。従来、商標登録には「全国的な知名度」が必要だったが「一定範囲の周知性があれば登録可能」と条件を緩和。30日現在、申請は721件。このうち213件が特許庁の審査を通過、商標登録の決定を受けた。
商標登録決定の内訳を都道府県別にみると、1位は京都府で33件。「鴨川納涼床」や「宇治茶」などすでに全国区の商標が並んだ。2位は石川県で17件。歴史や伝統を重んじる地域の産品が商標登録数でリードし、東京(8件)や大阪(3件)を大きく引き離している。
こうした現状について、京都府商工総務室は「もともと京都には伝統工芸品や由緒ある産品が数多くあった。府や京都市が事前に制度をPRしてきたこともあり、業界団体が積極的に申請した結果なのでは」と分析する。
内輪もめ
特許庁がホームページで公開している「都道府県別地域団体商標出願一覧」。各地の団体から申請された700を超える商標を眺めていると、ある産品について、複数団体がよく似た商標で申請していることが分かる。
顕著な例は「丹波黒大豆」だ。丹波地方は京都・兵庫両府県にまたがっており、黒大豆について、両府県の団体が“本家”を譲らずに対立。相互に調整することなく、京都側は全農など3団体がそれぞれ個別に計5件、兵庫側はJA丹波ひかみとJA丹波ささやまが、それぞれ2件ずつ申請した。
愛知県の「八丁味噌」も2つの業界団体が対立。一方が「八丁味噌」、他方が「愛知八丁味噌」と、よく似た名称で申請している。
消費者の視点
こうした地域間、業界間の対立を克服し、特許庁から商標登録を認められたケースもある。茨城県と栃木県に産地がまたがる「本場結城紬(つむぎ)」は、茨城県の「本場結城紬卸商協同組合」と、両県それぞれの「本場結城紬織物協同組合」の計3団体が共同出願人となって申請。
石川県の「九谷焼」も対立していた職人系の4団体と商工業系の6団体がまとまって「石川県九谷陶磁器商工業協同組合連合会」を設立し、商標登録にこぎ着けた。同連合会の伊野正満理事長は「他の産地に対抗するためには内輪もめをしている場合ではなかった」と話す。
地域団体商標制度に詳しいブランド総合研究所の田中章雄社長は「ブランドは消費者が作るという視点が大切であって、業界同士の対立は消費者にとっては意味がない。海外から流入する安い製品から地元産業を守るために一丸にならなけば、地域経済の発展を目指す制度の目的を果たせない」と話している。