「もう一度、妻を口説こう」。そんなキャッチコピーで今年売り上げを伸ばし続けるコンピレーションCDがある。1990年代のヒット曲を集めた「R35 Sweet J−Ballads」だ。4月の発売以降、50万枚を超え、収録曲をカラオケで歌う人も急増した。数あるコンピCDの中で群を抜く人気を得た「R35」とは−。
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今年発売された主なコンピレーションアルバム。中央が人気筆頭の「R35」 |
米米CLUB「君がいるだけで」、class「夏の日の1993」、藤井フミヤ「TRUE LOVE」…。収録曲は90〜94年にヒットした男性ボーカル作品14曲とデュエット2曲だ。30〜40代が多く購入しているという。
「今の30、40代はおそらく音楽が好きでも何を聴いていいか分からないという人が多いのでは。その世代が昔と同じテンションで楽しめるCDにしたかった」
企画したワーナーミュージック・シニアチーフプロデューサーの酒井善貴さんはそう狙いを語る。タイトルには「ひとつの時代感を演出した」という。
コンピ盤は毎年のように各社から発売されている。「R35」以降も、90年代のテレビドラマの主題歌などを集めた「クライマックス」やラブソングをまとめた「ピュア・ラブ」などが出た。
ただ、「R35」の売り上げは一頭地を抜く。オリコン週間チャートで半年近くトップ20に入り、現在も売れている。
ロングヒットの要因のひとつは明確なコンセプトだ。音楽マーケティングアナリストの臼井孝さんは「90年代前半に大ヒットした男性ボーカルの曲。これほど特化した作品はこれまでなかった」という。
また、コンピ盤は自社の音源を半分程度収録するのが通例だが、「R35」はワーナーの音源は1曲のみ。残りは他社のヒット曲で「メーカーの枠を取り払ったのが勝因」とみる。
カラオケの存在も大きい。90年代前半は「カラオケがはやり始めた時期で、歌を覚えようと頑張った人が多い」(臼井さん)。発売後、収録曲を懐かしむように歌う人が増え、8月に「R35」のメドレーも登場した。
CD不況といわれて久しいポップス界。だがアイデアや戦略次第で光明が見えてくる。「R35」はそれを物語っている作品といえるだろう。