世界に通用するシェフを日本から−。フレンチやイタリアンなど西洋料理の業界が若手料理人育成に力を入れ始めた。フランス料理の第一人者、三国清三氏(53)らをコーチに、来年10月にドイツで開かれる「世界料理オリンピック」に若手のジュニア代表チームを初めて派遣し、世界に挑む。大舞台を経験することで、次代の名シェフへの成長に期待がかかる。
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世界料理オリンピック・ジュニア部門の出場者を選ぶコンテストで、腕を競う若手料理人たち=10月、東京都大田区 |
「和風」で勝負
10月中旬の東京都大田区の調理師専門学校。西洋料理の調理師らでつくる全日本司厨士(しちゅうし)協会(AJCA)の主催で、世界料理オリンピックに派遣する若手料理人を選ぶコンテストが開かれた。ジュニア部門は23歳未満という制限がある。日本は同オリンピックにはこれまでも参加してきたが、ジュニア部門は初めて。
コンテストのテーマは「うま味」。世界で勝つには、その国ならではのオリジナリティーが必要だ。日本人が慣れ親しんだコンブやかつお節などの味を、西洋料理とどう融合させるかが勝負となる。推薦や公募を経た男女の「シェフの卵」19人が、5時間半の制限時間内に、メーン料理やデザートなどを4人分作る課題に挑んだが、中には時間が足りなくなる選手も。協会幹部からは「オリンピック参加は早すぎたか」との声も漏れた。
優勝者は山口市内のホテルに勤める沢野惇史さん(21)。メーンの付け合わせに地元のレンコンとゴボウを、ソースに干ししいたけを使うなど「和」の素材を活用。料理界の経験は2年程度だが、「味付けが確かで、技術が伸びる可能性が大きい」(審査委員長)と評価された。沢野さんら若手チームのメンバーは、三国氏のほか日本料理の田村隆氏(49)ら「料理の達人」たちに1年間鍛えられる。
経験豊かな欧米
“料理競技大会の最高峰”とされる世界料理オリンピック。中でもジュニア部門は、子供の時から料理人を養成する欧米のチームが経験も豊かで圧倒的に有利だ。
それでも挑戦するのは、若いうちに世界の舞台を踏ませて経験を積ませたいからだという。三国氏は「(料理界には)閉鎖的な徒弟制度があり、下働き5、6年で、やっと『魚をおろしてみるか』の世界。後継者を育てるには若手に夢と希望を与えなければ」と説明する。
見た目の華やかさとは裏腹に、昔ながらの職人かたぎが支配する料理界は少子化などで担い手不足となっている。その危機感が業界を動かしている。
また、東京などで外資系の高級ホテルが続々とオープンし、欧米から招かれた30代の若い料理長が活躍するケースが増えていることも業界を若手育成に駆り立てている。
これら外国人シェフの多くはジュニア部門の経験者。コスト管理や店舗の雰囲気づくりなど日本人の若手にはない技術がある。同協会は「このままでは日本人は料理長になれなくなる」と懸念。チーム派遣と並行して、新たに若手育成の場をつくることも考えている。