1台100万円を切る低価格車をめぐり、世界の自動車メーカーによる開発競争が本格化してきた。仏ルノー・日産自動車連合が従来比で約3割安い「世界戦略車」を投入しているほか、トヨタ自動車なども低価格車の開発を進めるなど、日本勢も負けていない。背景には中国、インドなどBRICs市場の急成長がある。世界の自動車需要の2割を占め、拡大を続ける新興国市場を「押さえなければ勝ち残れない」(メーカー首脳)との危機感が、開発に拍車をかけている。
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ルノーの低価格戦略車「ロガン」 |
激安車
「どうすれば3000ドル(約34万円)のクルマを作れるか、利益が出るかなどの情報を集めている」。日産のカルロス・ゴーン社長は6月、インド市場向けという3000ドル前後の“激安車”の開発に向けて調査を進めていることを明かした。
低価格車の「先陣」を切ったのは日産と連合を組む仏ルノーだった。傘下に収めたダチア(ルーマニア)が2004年、低価格車「ロガン」を発売した。排気量は1・4〜1・6リットルながらルノーとの部品共通化などでコストを削減し、6000ユーロ(約98万円)という衝撃的な価格に抑え、東欧諸国などでヒットした。
ルノー自身もロシアやインドでロガンの生産・販売を始め、10年にはルノー・日産が共同で北アフリカのモロッコでロガンを含めた低価格車専用工場を稼働させる。同連合は「3000ドルカー」とは別に、09年をめどに排気量1リットルクラスで7000〜8000ドルの小型車を発売する計画を進めている。
世界戦争
ルノー・日産が意識するのはインドの財閥系メーカー、タタ・モーターズの存在。同社は08年に10万ルピー(約29万円)という超低価格車の発売を表明しているからだ。このほか、激安車をめぐってはスズキと提携関係にあるマルチウドヨグ(インド)や現代自動車(韓国)、奇瑞汽車(中国)など、アジア新興国のメーカーも侮れない存在となっている。
トヨタや米ゼネラル・モーターズ(GM)などもこれをみて、新興国向け低価格車の投入を検討。トヨタは「エントリー・ファミリー・カー(EFC)」と呼ぶ低価格車を10年以降に商品化する計画で、「一定のめどはついた」(渡辺捷昭社長は)とする。三菱自動車も小型車「コルト」をベースにした低価格車開発を表明している。
将来は
将来的には、国内でも100万円を切るような低価格車が発売される可能性もある。国内自動車市場が長く低迷し、「たとえ日本でも、需要があれば他社に負けられない」(業界関係者)というのが各社の本音だ。
とはいえ、日本勢にとってはBRICs市場の攻略が先決。国内や欧米など先進国市場が成熟化した今、販売台数の伸びが年率20%を超える中国やインドへの視線は熱い。10年までに3000ドル以下の超低価格車市場は1億台を突破するとの民間予測もある。
各メーカーにとって最大の課題となるのは、コスト削減と品質の確保をいかに両立するかだ。ただ、日本メーカーは環境・安全などの性能面では一日の長がある。将来、新興国でも先進国並みの厳しい環境規制が導入されれば、日本勢にとって有利に働くことになりそうだ。