何年も袖を通すことなくタンスにしまい込んだ洋服ありませんか? 羊毛や綿、ポリエステルなど多くの素材が混合し、リサイクルが難しいとされてきた繊維製品だが、環境意識の高まりで、ここ数年、リサイクルに乗り出す企業が増加。何度でも再生可能なポリエステルを使ったスーツも登場し、衣料品リサイクルに新時代が到来しつつある。
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大手アパレルで初めて再生ポリエステル繊維を使用したフランドルのリクルートスーツ(撮影・中曽根聖子) |
「流行の変化に伴い、衣類の買い替えサイクルが早くなり、タンスは満杯、捨てるに困るという人が少なくない。海外から安価な商品が流入したことで、中古衣料を扱う古着店も減少している」と、昭和9年創業の繊維リサイクル業、ナカノ(横浜市)の中野聰恭(としやす)社長。
国内では年間約100万トンの衣類が家庭ゴミとして出され、そのうち古着などとして再利用されるのは十数%にすぎない。残る大半は埋め立て・焼却処分されているのが現状だ。
こうした中、高島屋が社会貢献活動の一環として取り組んでいるのが、不要になった紳士服を回収し、自動車の断熱材・防音材に再利用するリサイクルだ。平成14年に経済産業省の依頼で初めて実施したところ反響が大きく、翌年以降も継続。全国13店舗に拡大した昨年は約4900人から3万着が寄せられた。
「捨てるには忍びないけれど、何かの役に立つなら」と、亡くなった夫のスーツを持ち込んだ女性や、80着も提供した定年退職後の男性もいたという。
「スーツに限らず、家族の思い出がしみこんだ衣類は捨てられないという家庭が多い。最近は環境への配慮から、子供服や婦人服でも回収を実施してほしいという要望が強い」と河本昌和CSR推進担当課長。そこで、ジャケット、スラックスなどに限っていた回収対象を今年は婦人・紳士ウールコートにも拡大。今月から来月にかけて、東京・日本橋、横浜など8店舗で順次実施する予定だ。
メーカーやアパレルも衣類のリサイクルに本腰を入れ始めた。
「イネド」などのブランドで知られるアパレル大手フランドル(東京都港区)は今月、再生ポリエステル繊維を使った女性用リクルートスーツを発売。帝人の子会社、帝人ファイバー(大阪市)が世界で初めて開発したポリエステルの完全循環型リサイクル技術を採用、古くなったスーツは回収後、化学的に処理され新しいポリエステル繊維に生まれ変わる。
「何度リサイクルを繰り返しても繊維が劣化せず、新品同様の品質を保持できる。最終的にゴミになるフリースなどとは全く違う新発想のエコ素材」と、同社の池田裕一郎エコ事業推進チーム長は説明する。石油から新たにポリエステル原料を作る場合に比べ、エネルギー消費量、CO0759排出量ともに約80%を削減できるという。
すでに帝人ファイバーは75社との連携で、ユニホームやスポーツウエアを展開。環境問題に熱心なアウトドアブランド「パタゴニア」でも昨年から、この繊維を使った機能性アンダーウエアの販売、回収を進めている。
こうした動きについて、中野さんは「安く大量に作り消費する時代から、知恵と技術を結集した繊維リサイクルの新しい仕組みが生まれつつある」と変化を予感する。