
「喜久治はすごく人間くさい男。遊びも仕事に生かす。その生きざまに引かれますね」。沢田研二が、山崎豊子の同名小説を舞台化した音楽劇「ぼんち」(脚本・わかぎゑふ、演出・マキノノゾミ)の河内屋喜久治に挑む。古きよき大阪・船場を舞台に商いと愛憎渦巻く人間ドラマ。25日から28日まで新神戸オリエンタル劇場で上演される。
「ぼんち」は沢田がライフワークとする音楽劇シリーズの第7弾。「僕は歌の力を信じている。たとえ語った方が早くても、歌にすることでより大きな力で胸に直接響く」。そこに歌手、沢田の矜持がある。
戦前の大阪・船場。沢田がふんするのは、しにせの足袋問屋「河内屋」の五代目当主・喜久治。厳しいしきたりを踏襲する祖母(土田早苗)のもと、喜久治はライバル佐野屋(加納幸和)としのぎを削りながら遊びに商売に全力投球。そんな折、芸妓の幾子(土居裕子)と出会った喜久治はそのやさしさに心底引かれるのだが…。
“ぼんち”とは大阪の言葉で、放蕩はしても芯の通った甲斐性のある男のこと。実は三十数年前、ある劇場から「ぼんち」をやらないかと誘われたが、当時は断った。
「でも最近、藤山直美さんと『桂春団治』や『夫婦善哉』をやらせていただいて、ぼんちのような大阪の男をやれる人も少なくなってきたなあと思ったのです。しかも小説がすごくおもしろくてアッという間に読み終えてしまいました」
喜久治が、初代春団治のような鬼気迫る破滅型ではなく、清濁併せのむ人間であり、戦争や最愛の人の死にも、うちひしがれながらも再び立ち上がろうとする姿にも強く引かれた。
「僕もどちらかというと喜久治と同じタイプ。環境が変わってもその中で自分を変えて生きていこうとする人間やと思う。いい意味で普通でいたいし、それが自分に合った生き方かな」
舞台では大阪の匂いを全身からにじませながら絶妙の間で笑わせ、情感こもる演技で泣かせ、歌の力で心をゆさぶる。インタビューもごく自然な関西弁、スーパースターの素顔はごく率直だ。
「自分の好きな曲を、僕を好きでいてくれる人のために歌う。こんな幸せなことはないですね」
7月15日の大阪フェスティバルホールを皮切りに京都、奈良、神戸でコンサートも行われる。
音楽劇「ぼんち」の問い合わせは新神戸オリエンタル劇場TEL078・291・9999。