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読めば読むほど複雑
谷崎原作の舞台「春琴」深津絵里に聞く
2008/2/7 産経新聞  東京朝刊 by 江原和雄
「誰も踏み入れていない雪の中に足跡をつけるような作業です。足を一歩降ろすときの何ともいいようのないうれしさがあります」。谷崎潤一郎を原作とする舞台「春琴(しゅんきん)」に出演する深津絵里は稽古(けいこ)の様子をこう話す。イギリスの演出家・劇作家サイモン・マクバーニーが谷崎の小説「春琴抄」とエッセー「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」をもとに創(つく)り上げる「春琴」が、一筋縄ではいかない芝居になることは深津の言葉からも明らかだ。

好奇心が強いからこの舞台にも参加したという深津絵里
好奇心が強いからこの舞台にも参加したという深津絵里

目の不自由な大阪の薬種商の娘春琴と奉公人佐助の主従かつ琴の師弟関係をモチーフに、2人の愛の形をテーマにした「春琴抄」。陰翳にこそ美しさがあるという日本的な美の本質をつづった「陰翳礼讃」。「闇の世界は私たちの想像力を刺激します。『陰翳礼讃』で語られる闇をヒントに『春琴抄』の愛の本質や真実を探りたい」とマクバーニー。

さらに「谷崎は『春琴抄』で全く架空の世界、過去を再創造しています。物語を脱構築するアプローチがモダンです。読めば読むほど複雑です」と話す。小説だがドキュメンタリーのようにも読め、また春琴の性格を描く際、小冊子「鵙(もず)屋春琴伝」からの引用、佐助の語り、春琴の弟子の言い伝えなどさまざまな角度から、また標準語や大阪弁をない交ぜにして形容する。春琴の複雑な人間性の多層的な描写に興味を引かれるという。

マクバーニーはケンブリッジ大を卒業、ローレンス・オリヴィエ賞最優秀振付家賞を受賞している演出家だが、ヨーロッパの会話劇の伝統の系譜ではなく、日本での前作「エレファント・バニッシュ」(村上春樹原作)のように役者の身体性や視覚性に重きを置く。

だから「春琴」は「春琴抄」の筋をただ追うことはせず、「春琴抄」の複雑な構造もあり「複数の俳優が春琴を演じる」仕掛けが施される。稽古もあらかじめ作られた台本を順に演じるのではない。「春琴抄」を稽古していたと思ったら「陰翳礼讃」をみんなで読み始めたりと、毎日が発見の連続だと深津はいう。

「筋を追っては面白くない。サイモンさんがやることではないと思います。サイモンさんの目線で、谷崎の欲望や人間性が浮き彫りになってくるんです。女性の描かれ方、春琴の見方など男性の目線を感じます。谷崎さんの理想の女性なのでしょうか。春琴は盲目である必要があったのかもしれません」

深津をはじめ役者たちはマクバーニーとワークショップを行い、昨年暮れにもロンドンで1カ月近く稽古を行った。お互いの信頼関係があるからこそできる舞台、と深津は信じている。テレビや映画「踊る大捜査線」などで知られる深津は一方で、野田秀樹作・演出の舞台出演を重ねてきた。

「サイモンさんでしかできない作り方です。毎日、稽古場で何かが生み出されていく。エキサイティングなエネルギーの中に毎日身を置いているのはとても刺激的です。舞台ならではのダイナミズム、はっとする瞬間がすごくすてきなんです。一歩ずつ積み上げていって、最後にきれいに重なった瞬間が何物にも代え難い」と創造する役者の喜びを話した。

公演は21〜3月5日、東京・三軒茶屋の世田谷パブリックシアター。(電)03・5432・1515。

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