3年に一度、世界のパン職人がその腕を競い合う「クープ・デュ・モンド」が来月、パリで開催される。世界12カ国から3人のパン職人が1チームとなって、規定の品目を8時間以内に仕上げ、その技術、スピード、芸術性を競う。平均年齢35歳の若き日本代表チームは今、“パンのワールドカップ”の頂点を目指して国内の最終トレーニングに励んでいる。
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「今までで一番チームワークがいい」と評判の日本代表のメンバー。(左から)西川正見さん、渡部賢一さん、山崎彰徳さん |
クープ・デュ・モンドは、MOF(フランス国家最優秀職人)が中心となって設立された手作りパン振興会が主催し、今年で7回目を迎える。穀粉、イースト、水、塩だけで作る伝統的なフランスパンなどの「バゲット・パンスペシオ」、発酵生地で作るクロワッサンなどの「ヴィエノワズリー」、そして「飾りパン」の3部門に加え、チームの共同制作による「パン・サレ」(サンドイッチ)がある。
国内の選考会を勝ち残り、日本代表に選ばれたのは、西川正見さん(ドンク)=バゲット・パンスペシオ部門▽山崎彰徳さん(神戸屋レストラン)=飾りパン部門▽渡部賢一さん(帝国ホテル)=ヴィエノワズリー部門−の3人。
山崎さんは飾りパンの「自国の象徴」というテーマに、大きなかぶとをあしらった作品で挑む。またチームリーダーでもある西川さんは「とんがったり、曲がったりしている勢いのあるパンで自分らしさを出したい」と抱負を語る。
しかし見た目の奇抜さの半面で、国の異なる人々が審査にあたるため、「味は個性を出し過ぎないようにする」という。
3人の“トレーニング”の現場を訪ねた。こうばしい香りがただよう中、時には厳しい表情で、時には笑い声を上げながら“作品”に取り組んでいる。
大会では、小麦粉などの材料や機器類は、大会本部が用意したものを使用しなければならない。温度や湿度の微妙な変化に応じた生地作り、初めて使用するオーブン類の微調整など、臨機応変に対応できるよう訓練を積み重ねている。
「とくにヴィエノワズリーは砂糖が多いので焦げやすい。本選は使ったことのないオーブンでやらなければならないので焼成には注意しなければ」と渡部さん。
個々の技術力だけでなく、「過去に何度も機械の不具合などのトラブルが起こっているので、それをカバーし合うチームワークがとても大切」と山崎さん。事前のトレーニングでは、いかに多くの失敗を経験するかが大事だという。
日本はクープ・デュ・モンドで2002年に初優勝し、常に4位以内に入る好成績で技術の高さを世界にアピールしてきた。初優勝した際のチームリーダーを務めた帝国ホテルのベーカリーシェフ、山崎隆二さんはこう振り返る。
「大きなトラブルもなく最高の状態で、完璧(かんぺき)な形にできたのがうれしかった。フランスもアメリカも、米文化の国が勝ってしまってピリピリしたのでは」
上位3位までが次回大会のシード権を得られることもあり、3人にはプレッシャーがかかるところだが、「それを意識すると、作るパンのクオリティーが下がるので楽しく作りたい」と西川さんはきっぱり。
そして3人はこう口をそろえる。「パン作りは思い通りにいかないからおもしろい」。パン職人にはトラブルやハプニングをも楽しめる強さが求められるのだ。
大会は来月30日に行われ、4月2日に結果が発表される。