4月からフジテレビなどでアニメ化放映される『図書館戦争』の原作者でライトノベル作家、有川浩(ありかわひろ)さんの新刊『阪急電車』(幻冬舎)が面白い。兵庫県西宮市と宝塚市を結ぶ阪急電鉄今津線の車内や駅、街を舞台に、行き交う人たちの人生が少しずつ交錯する短編集。袖触れあうも多生の縁−。そんな言葉をかみしめたくなる温かな物語だ。地元の関西を中心に人気となり、発売約1カ月で7万部を超えている。
 |
有川浩 |
「今津線(のエリア)は、関西の2大都市の大阪と神戸にそれぞれ30分の距離。それなのにいい感じに田舎で、人も温かい。物語の舞台として面白い」
今津線の宝塚駅と西宮北口駅との往復約30分。ゴトゴトと電車に揺られて物語は動き出す。
主人公は各駅ごとに入れ替わる。いつも図書館で見かけ、恋心を抱いていた女性と同じ車両に乗り合わせた征志は…(宝塚駅)。翔子は、元恋人の結婚式に白いドレスで“あだ討ち”に(宝塚南口駅)。時江は、白いドレス姿で目立ちまくっていた翔子に「討ち入りは成功したの?」と話しかけ…(逆瀬川駅)。
片道8駅、往復16駅、物語は計16編。誰もが目にするさりげない風景に溶けこんでしまっている人生の機微を丁寧に描き出す。読み進めるうちに、日々の暮らしを楽しむ感覚が呼び起こされる。
それぞれのエピソードが絡み合う短編連作というユニークな構成で、他の登場人物の会話や沿線の風景をそれぞれが共有するという仕掛けも楽しい。関西弁のノリもよく、登場人物に素直に共感できる。
「私の小説の書き方は“ライブ派”。書きはじめると人物が動き出すんです。私は透明でちょっと自分勝手なカメラを持って、人物の近くに寄ってうつし出すだけ」
高知県出身。平成15年に『塩の街』で電撃小説大賞を受賞し、作家デビュー。人気シリーズのひとつ『図書館戦争』は4月からTVアニメ化放映される。今やライトノベルの枠を超えて、気鋭の作家として注目される存在だ。
ただし、本人は“脱力系”のキャラクター。創作の根底にあるのは、日常をユニークに切り取る視点と庶民感覚、そして夫の存在だという。『阪急電車』も『図書館戦争』も執筆の端緒は夫のアイデアだったとか。
東京からの仕事の依頼が増えているが、スタンスは変えない。「注目されたから東京進出っていうのは違う。夫は関西在勤だし、私の仕事は後についてきたもの」とさらり。
「作家の仕事も、魚屋が鮮度のいい魚をそろえ、おいしそうに並べて売るのと同じ。新鮮なネタで楽しんでもらえる作品を書く。制限のない活字の世界で自由に遊ばせてもらおうと思っています」