南アフリカ産ワインの人気がじわじわ広がっている。高い品質にもかかわらず値段は手ごろで、ワイン愛好家が注目。2年後にはサッカー・ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会が開催されることもあり、今後話題を集めそうだ。
歴史背景に共感
バランスのよさ東京都港区のレストラン「ヌースフィア カフェダイニング」。南ア産の濃厚な赤ワインを口に運ぶと、豊かな果実味とパンチのある香り、そしてどこか懐かしさのある余韻が広がった。「太陽の味がするでしょう?」。オーナーの布施真人さんがにやりと笑う。
布施さんらスタッフが南アを旅行した際、農薬をほとんど使わないブドウ栽培や、テロワール(土地独特の風味)の強さなどが気に入って、一昨年から南ア産ワインを販売している。「もう一度あのワインが飲みたい」とリクエストする客も多く、現在メニューにならぶワインの9割以上が南ア産だ。
南アフリカは地中海性気候で昼夜の寒暖の差が激しく、ワイン作りに適している。平成16年から南ア産ワインを扱っている東京都世田谷区の酒販店「港屋」の鴨沢祐子さんによると「パワフルな印象がある南半球のワインだが、南ア産は自然体で、酸味、渋み、甘みのバランスが取れているところが魅力」という。
同店では、この4年間で販売量が約10倍に増加。店頭で60種類、ネットでは80種類をそろえている。鴨沢さんは「南ア産が国内に入ってきた約10年前、お客さんに『本当に飲めるの?』と言われました。でもおいしくて、1本2000円前後と気軽に飲める値段。そしてアパルトヘイトを乗り越えてきた各銘柄のストーリーが飲み手の共感を呼んで、ファンを広げています」と話す。
世界最上級の評価
世界最上級南ア産ワイン事情に詳しいベイシスワインスカラ主宰、石井もと子さんによると、南アフリカのワイン生産は20世紀半ば以降、アパルトヘイトに対する経済制裁や、生産の国策協同組合化のためにやる気が低下し、長く低迷期が続いていた。だが1970年代から意欲のある作り手が次々と組合から独立。90年代の民主化で販路も世界中に広がり、外資の醸造所も増えた。この結果、品質は格段に向上し近年では欧米への輸出量が大幅に増えている。
財務省貿易統計によると、日本の輸入量は平成19年は約177万リットル。赤ワインブームの終息や、現地通貨の高騰で、ピークの10年(約651万リットル)の3割以下まで落ち込んでいるのが現状だ。しかし、小規模生産の高品質な銘柄が国内で紹介されるようになったことに加え、「ブランドよりも味でワインを選ぶ飲み手が増えた」ことで、酒販店や大都市圏のビストロなどで扱う店が徐々に増えているという。
「2010年のサッカーW杯に日本代表が出場できれば、一気に需要が増えるでしょうね」と石井さん。
南ア産トップブランドの一つ「フィルハーレヘン」などの輸入代理店を務める三国ワイン営業企画部の須佐敏郎さんによると、1月、スイスで行われたテイスティング評議会で、ブラインドテイスティングの結果、シャトー・ラトゥールなど仏の最高級ワインを抑えて上位に入ったという。
こうした高品質路線がうけ、同社で扱う南ア産ブランド3種類の輸入量は19年、対前年比2・5倍の伸びだった。須佐さんは「まだ日本人が知らない銘柄が紹介されることで、今後はもっと知名度が高まるでしょう」と話している。