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ハーフェズへの到達点とは
イランの奇才 ジャリリ監督に聞く 
2008/1/10 産経新聞    東京朝刊 by 戸津井康之
「コーランなくとも各家庭にハーフェズ詩集あり」。これはイランの常識だという。ハーフェズは約700年前、古代ペルシャに実在した詩人。「現在まで人々の心を魅了するその秘密とは何なのか? 私はそれが知りたかった」。アボルファズル・ジャリリ監督は映画「ハーフェズ ペルシャの詩(うた)」を撮影した理由をこう話す。カンヌ、ベネチアなど数々の映画賞を受賞。世界が認めたイランの奇才、ジャリリ監督に聞いた。

「ハーフェズ ペルシャの詩」のワンシーン
「ハーフェズ ペルシャの詩」のワンシーン
「七人の侍」「羅生門」をはじめとする黒澤明監督の作品など日本映画に多大な影響を受けたというジャリリ監督はインタビューで、こう切り出してきた。

アボルファズル・ジャリリ監督
「あなたは“クロサワ”と言われたとき、何を思い浮かべますか。それは人としての黒澤監督の顔ではなく、黒澤作品や彼がその作品に込めた魂をイメージするでしょう」

ハーフェズも同じだという。ジャリリ監督はハーフェズという人物ではなく、彼が書き記した詩の世界観に到達するために、この映画を撮る決意を固めた。

《青年シャムセディン(メヒディ・モラディ)は、コーランを諳(そら)んじている者だけに与えられる称号「ハーフェズ」を授けられる。彼は高位の宗教者の娘、ナバート(麻生久美子)にコーランを教えるよう命じられる。幾日もコーランの授業が続くなか、しだいに2人の心は通い始める。が、「決して互いの視線を交わしてはいけない」という掟(おきて)を破ってしまう。彼はハーフェズの称号を剥奪(はくだつ)され、旅に出る。一方、ナバートは、もう1人の青年シャムセディン(メヒディ・ネガーバン)と結婚させられていた…》

宗教者の娘で母方がチベット人というナバート役に抜擢(ばってき)された麻生。「今村昌平監督の『カンゾー先生』で彼女を見て以来、その魅力に惹(ひ)かれヒロイン役を頼みました。撮影現場で彼女はごく自然に演じてくれた。スタッフの誰も彼女を外国人だとは意識していなかった」とジャリリ監督は話す。

同じ名前の2人のシャムセディンとナバート。青年2人はナバートを愛すが、その愛し方は違う。「1人は宗教者、もう1人は修行者。どちらが真のハーフェズに到達できるかがテーマですが、実はハーフェズに到達するためには、まだまださらに奥があるのです…」。ジャリリ監督は意味深長に笑みを浮かべた。

宗教問題にも踏み込むこの作品がイランの映画館で上映される予定はないという。「決して悲観はしていません。黒澤だって、さまざまな困難を乗り越え名作を作り続けてきたのですから」

日本公開は19日から。

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