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原作者の実話に基づく
映画「ヒトラーの贋札(にせさつ)」ナチスの悪行伝えたい
2008/1/11 産経新聞    東京朝刊 by 岡田敏一
第二次世界大戦中、ナチスドイツが敵国、英の経済混乱を目的に偽ポンド札を大量に製造した「ベルンハルト作戦」。「ヒトラーの贋札(にせさつ)」(ステファン・ルツォヴィッキー監督、19日公開)は当時、偽札製造を強要されたユダヤ人技術者の苦悩を描く作品だ。映画の原作者で技術者の1人だったアドルフ・ブルガー(90)は「ナチスドイツの悪行を若い世代に語り継ぎたい」と本作への思いを語った。

1917年8月、スロバキアに生まれたブルガーはヒトラー支配下のスロバキアで共産主義者の地下活動に協力し、戸籍謄本(とうほん)などを偽造。42年8月、ゲシュタポ(ナチの秘密警察)に捕まり、アウシュビッツなどユダヤ人の強制収容所を転々とし、44年4月から米軍に解放される翌年5月まで偽札を製造した。

本作は彼のこうした体験をもとに構成。独ザクセンハウゼンの強制収容所に送られてきた世界的な贋作(がんさく)師のサロモン、印刷技師のブルガーらユダヤ人技術者が完璧(かんぺき)な英ポンドの偽札作りを強要される。次々と仲間が虐殺される極限状態のなか、彼らは家族や友人を守るため、宿敵ナチに加担し、偽札作りに従事するが良心の呵責(かしゃく)に悩み抜く…。

「私が書いた原作に忠実であるよう、脚本は3回書き直させた。多くの人にアピールするよう一部フィクションを交え、娯楽性も高めた」(ブルガー)

「ヒトラーが殺人以外に偽札作りまで行っていた事実を広く知ってほしかった」と話す彼の左手の甲には囚人番号「64401」の入れ墨が。悲劇の生々しさを感じさせるが「今の独の若者の多くは政治にもナチの戦争犯罪にも関心がない。思春期の無垢(むく)な若者がネオナチ(ナチの思想を受け継ぐと称する集団)にだまされる…」。88年からは独の若者に自らの体験を語る講演活動も続けている。

彼らが作った偽ポンド札は総額約1億3200万ポンド(約282億円)。英の中央銀行が本物と認めたでき映えだったが…。「偽札作りが芸術? あんなの芸術でも何でもないよ。すかしの中の秘密のコード番号が問題。それが分かれば君も作れるさ…」

冗談めかした言葉にも、実体験した人だけが持つ重みを感じられた。

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