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クリスティアン・ムンジウ監督に聞く
映画「4ヶ月、3週と2日」独裁政権下で生きる苦悩
2008/3/7 産経新聞    東京朝刊 by 岡田敏一
昨年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを獲得したルーマニア映画「4ヶ月、3週と2日」(公開中)。妊娠中絶が違法だったチャウシェスク独裁政権末期の1987年のルーマニアを舞台に、ルームメートの違法中絶を手助けする女子大生の1日を生々しく描く異色作だが、クリスティアン・ムンジウ監督は「中絶の問題を通して、私が体験した共産主義の悪辣(あくらつ)ぶりを広く知らしめたかった」と訴える。

中絶手術をめぐる人間ドラマを描く「4ヶ月、3週と2日」
中絶手術をめぐる人間ドラマを描く「4ヶ月、3週と2日」

大学生のオティリア(アナマリア・マリンカ)は、中絶を望む寮のルームメート、ガビツァ(ローラ・ヴァシリウ)を助けるため、長い1日を過ごそうとしていた。

当時、中絶は違法であり、ばれると厳しい罰則が科せられた。そこでオティリアは恋人アディ(アレクサンドル・ポトチェアン)からこっそり金を借り、非合法に中絶を請け負う男を手術場所のホテルに連れて行く。が、金の使い道を恋人に隠したため恋人との仲が険悪になったり、ホテルの予約ミスや中絶料をめぐりトラブルになったり、右往左往(うおうさおう)させられる…。

自由が極端に制限され、密告や裏切りがはびこる共産主義の独裁政権下に置かれた人々の悲惨な状況を最も的確に伝えるため“中絶”を題材に選んだというムンジウ監督。

とはいえ「中絶の問題に的を絞った作品ではないんだよ。中絶に対する価値観や倫理観を浮き彫りにすることで、共産主義が行った最も悪辣な行為を描こうとしたんだ。当時20歳代だった私が体験したチャウシェスク政権の残忍さや悲惨さを表現するため、中絶を舞台回しに持ってきたともいえるね」。

映像もユニークだ。「あくまで主人公の視点で物語を語りたかった。それに観客が物語に集中できるよう、製作者側の顔ができるだけ隠れるような作品をめざした」といい、音楽やクローズアップといったありふれた演出を避け、カメラはワンシーン、ワンカットの長回しで登場人物を追い続ける。ドキュメンタリー風の荒々しい場面展開がひりひりするようなリアリズムを生み出している。オフィスでの事務作業のように淡々と進む中絶手術。この場面は全体主義や共産主義の持つ底知れぬ不気味さを見事に表現している。

しかし声高に何かを主張するのではなく、物語の結論や主題の解釈を見た者に委ねている。「映画は物語を語るだけでいいのです。製作に際し、どの側にも肩入れしないのが私の主義。見た人が自分の信念に基づき答えを出せばいい。実際、私自身、今も答えを探していますからね」。見る者の“自由”をも最大限に尊重する作品。各国で高く評価されたのもうなずける。

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