MSN産経ニュース SANSPO.COM ZAKZAK iZA! FBi
ENAKってどういう意味? | お知らせ | 新聞バックナンバー購入 | 問い合わせ | リンク・著作権 | MOTO | MSN産経ニュース
「めっちゃうれしい。」川上さん
芥川賞に川上未映子さん 直木賞が桜庭一樹さん
2008/1/17 産経新聞  東京朝刊 by 酒井潤
第138回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考委員会が16日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、芥川賞は川上未映子さんの「乳(ちち)と卵(らん)」(「文学界」12月号)、直木賞は桜庭一樹さんの「私の男」(文芸春秋)に決まった。

握手する芥川賞受賞の川上未映子さん(右)と直木賞の桜庭一樹さん

記者会見が同夜、東京・丸の内の東京会館で行われた。川上さんは「すごくびっくりしています。めっちゃうれしい。いや、めさんこうれしい」と自身の小説と同じ言葉であいさつ。桜庭さんは「今までにないものを書いて、書ききったものが評価を受けてうれしい」と喜びを語った。

川上さんの「乳と卵」は、東京・三ノ輪の「わたし」の部屋で、大阪からきた姉の巻子と小6の娘、緑子が過ごした夏の3日間が描かれる。女性たちの不安やいらだちを大阪弁でつづっている。選考委員の池澤夏樹さんは「文句なしの受賞。文章がよい。読んでいて声が聞こえてくる」と評価。

桜庭さんの「私の男」は、親子の禁忌の愛をつづるミステリー。圧倒的な筆力で不気味な世界を構築している。選考委員の北方謙三さんは「反社会的なものもあるが、あえてこれを受賞作として世に問うてみたい。作家としての可能性を豊穣(ほうじょう)に感じた」と資質を高く評価した。

また、今回初の中国人作家として芥川賞候補になった楊逸(ヤンイー)さんについて池澤さんは最後まで議論になったことを明かし、「次を待ちたい」とした。

贈呈式は2月22日、東京・丸の内の東京会館で行われる。賞金は100万円。

川上さん 大阪弁で「私」を洞察
「待っている間、ものすごい緊張していました」

肩書は文筆歌手。平成14年に歌手デビューし、その一方でブログやエッセー、詩を書いてきた。「音楽も文筆も根は同じ」という。そして、初の小説「わたくし率 イン 歯ー、または世界」が前回芥川賞候補となり一躍、注目された。

ほとばしる大阪弁が魅力の文体は、「運動したいとき履きたい靴の感じで、しゃべる調子。運動神経や反射神経でやっている」と説明する。

作品に一貫するのは、「私」についての洞察と「言葉」をめぐる問題。「小さなころ、ロボット型の遊具に入って出たとき、『私は私の“身体”のなかに入っている』と意識した」。ホステスなどをしながら、大学の通信教育で学んだ哲学がそんな思考を裏打ちした。カントやビトゲンシュタインを読み、埴谷雄高の影響を受けた。好奇心はとどまらない。しかし、「音楽ならジョン・レノン、文学なら樋口一葉など、“どメジャー”なものが好き」とも。

受賞作は、物語の構図に一葉、そして「たけくらべ」を借りた。「自分が一葉を読んで感じた“一石投じられ感”をアウトプットとしてやりたかった」という。

「病気かと思うくらい、締め切りがくるまで書けない。薬がほしい」というが、その締め切りに追われる日々がまた始まりそうだ。



携帯版SUMiRE STYLE スミレモバイル登場




産経新聞社から記事などのコンテンツ使用許諾を受けた(株)産経デジタルが運営しています。
すべての著作権は、産経新聞社に帰属します。(産業経済新聞社・産経・サンケイ)
Copyright(C)2008 SANKEI DIGITAL INC. All rights reserved.

ここは記事のページです
記事関連情報
桜庭一樹
さくらば・かずき 昭和46年、鳥取県出身。平成11年に「夜空に、満天の星」(「AD2015隔離都市 ロンリネス・ガーディアン」と改題)で第1回ファミ通えんため大賞佳作を受賞、作家デビュー。「赤朽葉家の伝説」(18年)で日本推理作家協会賞受賞。

川上未映子
かわかみ・みえこ 昭和51年、大阪府生まれ。「夢みる機械」などのアルバムも発表する“文筆歌手”として活躍。処女小説「わたくし率 イン 歯ー、または世界」が昨年の第137回芥川賞候補になり、第1回坪内逍遙大賞奨励賞を受賞。

携帯で読むSUMiRE STYLE