散歩だって旅のうち−。『るるぶ』シリーズなどの旅行情報誌が、より狭い地域に焦点を合わせた編集方針にシフトして、お散歩マップや便利帳などにも使えるような地域密着型ガイドブックとして注目されている。グルメや遊びのスポットはもちろん、地元の歴史や雑学、行事といった地域情報を掲載するなど、旅行者だけでなく、地域の住民や通勤者などの新規読者を開拓。横ばい状態が続いていた発行部数も伸びている。
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雑誌片手に街歩きを楽しみたくなる地域密着型の旅行情報誌 |
わが街ガイド
旅行情報誌『るるぶ』(JTBパブリッシング)は、昭和59年の創刊以来、計3400号を超える人気シリーズ。これまでは原則的に、都道府県ごとに枠組みを設定して発行されていた。あまり小さなエリアの設定は「読者が限定される」と敬遠されていたが、この数年で編集方針が変わってきた。
昨年10月に発行された『るるぶ品川区』は、同区の協力で誕生した地元密着型の“わが街るるぶ”だ。品川観光協会では「自治体では、こうしたガイドブックを発行したくても、立場上、掲載する店や場所の取捨選択がしにくい。雑誌製作のノウハウもない。こうした冊子が地元の魅力を見直し、地域活性化の契機になる」と話す。
地元企業や大学
エリアの細分化は、平成15年11月発刊の『るるぶ練馬』が最初。地元情報誌と位置づけ、都道府県でなく市区をひとつの単位にした。初版2万4000部だったが、予想以上の反響で、発行部数は7刷計6万6000部にまで成長している。さらに3月には新版が発行予定という。
人気の秘密は、旅行者だけではなく、地域の居住者や勤労者、転勤などによる地域新規参入者をターゲットにした誌面作りにある。
たとえば飲食店の紹介でも、これまでの旅行情報誌は、最寄り駅から15分以上かかる場所は避ける傾向があった。しかし、地元密着型の場合は交通の便が悪い立地でも紹介。また、区役所情報や地域の中小企業数、商店街、大学など教育機関の詳細、細かな文化財までも取り上げ、転勤者などが最初に手にする本としても便利になっている。
住民も旅行者も
地図などを出版する昭文社も墨田区と協力し、“狭域版情報誌”となる『まっぷるマガジン 両国・錦糸町・向島』などを発行している。担当者は「4、5年前から住んでいる人を読者と想定した誌面作りをしている。その結果、旅行者以外の新しい読者層を開拓できたのでは」と話す。
『旅の手帖』で知られる交通新聞社も、街歩きブームを背景に『散歩の達人』シリーズを刊行。狭い地域に注目した“ディープ”な情報が、地元住民を読者として引きつけている。同社では「読者層が広がれば、読者の興味も広範になる。さらに旅行情報誌の視点は多様化していくはず」と話す。
JTBパブリッシングの池内信子さんは「地元でも知らないことや行ったことのない場所は多い。そういった情報を掘り起こした結果、地域住民のニーズも旅行者のニーズも満たす情報誌として魅力を増したのでは」と分析している。