原材料価格の高騰にあえぐ外食業界で、日本マクドナルドホールディングス(HD)が“独り勝ち”を続けている。平成19年6月から全国チェーンでは初となる地域別価格制度による実質値上げに踏み切り、年間を通じて毎月、過去最高の売上高を記録した。値上げしても、それ以上に売り上げが落ち込み、元も子もなくなるケースは多いが、次々と新たな手を繰り出し、消費者の“納得感”を満足させる戦略が奏功した。
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新業態店「マックカフェ」の開店セレモニーに臨む原田泳幸社長(右から4人目)=東京・恵比寿 |
「あの時導入していなかったら…。正しい判断だったと思っている」
日本マクドナルドの原田泳幸・社長兼CEO(最高経営責任者)は、食品値上げの動きが広がるなか、先手を打った経営判断に自信を深めている。
同社は、全国一律の「ワンプライス」という全国チェーンの不文律を破り、地域別価格制度を昨年6月下旬から順次導入。賃料や人件費の高い都市部の店舗で値上げ、地方は値下げしたが、全店舗のうち約9割が値上げとなった。
当初は、売り上げや客数の減少につながると懸念する周囲の声もあったが、杞憂(きゆう)に終わっている。
19年の月別業績によると、全店売上高と客数は、年間を通じてその月の過去最高を更新し続けた。値上げが浸透した9月9日には、1日の売り上げが創業以来36年の歴史の中で過去最高の23億8200万円を記録している。
その結果、19年12月期決算の業績予想も上方修正し、連結売上高が前期比11・2%増の3956億円、最終利益が5倍の77億円となる見通しだ。
「16年以降、『顧客数拡大』戦略を徹底し、人材などへの投資を積極化してきた効果が、大きく貢献している」
原田社長は、業績絶好調の要因をこう分析する。
基本戦略を徹底し、その戦略に基づき、スピード感を持って、次々と具体策を積み重ねていくというビジネスモデルが、強さの秘訣(ひけつ)だ。
原田社長が、同じ“マック”の愛称を持つアップルコンピュータ(日本法人)社長から異色の転身を遂げたのは16年。その前の15年12月期の業績は売上高が2998億円、最終損益は71億円の赤字に転落していた。
原田社長が手を付けたのが、外食産業の基本であるQSC(経営の質、サービス、清潔さ)の徹底。17年からは「この戦略がなければ、今日はない」(原田社長)という、低価格の100円メニューによる「バリュー戦略」を展開。業績が上昇反転するきっかけを作った。
しかし、独り勝ちマックに死角はないのか。過去には、平日半額バーガーで業績を拡大しながら、その後、値上げと値下げを繰り返す価格戦略の迷走でジェットコースターのように業績が急降下した経験もある。昨年11月には、自主衛生基準を逸脱したサラダを販売していたという不祥事も発覚した。
食の安心・安全に対する消費者の関心がかつてないほど高まるなかでの不祥事には、「好業績によるタガの緩み」(業界関係者)と指摘する声も出ている。
消費者の納得感を満足させる基本戦略の徹底に加え、経営の緊張感を持続できるかが、カギとなりそうだ。