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俳優 大森南朋 静かな時間を身にまとって
この記事は17年3月8日にアップしたものです
フランス映画ならではのスタイリッシュで過激、そして幻惑的なサスペンス「デーモンラヴァー」が12日から公開される。監督は鬼才、オリビエ・アサイヤス。IT企業を舞台に「バーチャルリアリティ(仮想現実)の中を浮遊するような感覚を再現したかった」と語るが、なるほど現実とネットの世界が交錯する作品世界に、観客はやがて自分の居場所を見失ってしまうだろう。パリ、メキシコ、東京で撮影。多彩な役者が顔をそろえるが、大森南朋もそのひとり。海外作品初出演となた大森に話を聞いた。

初の海外作品
演じるのは、日本アニメ社という日本企業の社長。世界屈指の3Dグラフィックス技術に目をつけた仏企業ヴォルフ・グループから買収をもちかけられる…。

大森南朋 たとえば、商品やアニメ業界の実情について説明する場面は、自分と商談相手、そして通訳の3人での芝居になるわけだが、通訳に話す芝居は、言葉に感情を乗せられない。もどかしかったと振り返る。

「難しかったですね。実は通訳役の方が間に入ると知ったのは現場に入ってからだったんですが、間のやりとりは練習を重ねました。もっとも通訳をはさんで外国の方と会話することは普段なら当然あるわけで、状況は想像できました」

存在感
アサイヤス監督が日本人俳優を探していると聞いてオーディションを受けた。落ち着いた物腰の社長を演じてみせるが、どんな役だろうとその人物が実際に存在しているかのようなリアリティーをもたせる演技が、大きな魅力だ。

たとえばドラマ「夫婦。」でみせた人のいいサラリーマンから「ヴァイブレータ」(廣木隆一監督)のトラック運転手。あるいは青春映画「アイデン&ティティ」(田口トモロヲ監督)におけるバンドマン。いずれも物語に溶け込むように彼はいる。

大森南朋 「突出した個性がある人物のほうが役作りはしやすいです。好青年や二枚目は苦手かもしれません。『カッコつけて』って求められるのにこたえるのが難しいように」

この映画に出てくる日本は、あくまでアサイヤス監督の日本観に基づく。お座敷接待の後は、クラブでお酒…といった具合だ。

「監督の世界観を大切にしました。こういうことは日本では実際にはない、という描写があったとしても、この映画では彼らがとらえる日本らしさが重要なんです。あの設定すべてが必然だった、と思っています」

日常とは“ひとつの現実”から“次の現実”へのジャンプだというのがアサイヤス監督の考えだ。東京アニメ買収をはかる仏大企業、ヴォルフ・グループ。一方、ヴォルフ・グループが新しく始めるウェブサイトの独占権を、仏の強豪IT企業2社が水面下で狙う。いずれの策略にも共通するのがネット社会の底知れぬ闇。産業スパイ、ディアーヌ(コニー・ニールセン)は、裏工作を仕掛けあぐねるうちに現実とネット世界との境界を見失っていく…。

「難解でしたが、アサイヤス監督の内面に抱えている世界を見事に表現した作品ともいえます。個人的には、もうちょっと早い時期に公開されればよかったなと思います」

漂わせる“静かな時間”
実は撮影完了から4年が過ぎての公開。映画の中の大森南朋と目の前の彼との間には4年の歳月が横たわっているわけだが、その間に重ねてきた優しさ、を感じさせる。たとえば質問について考えながら視線をさまよわせる仕草、その時間は静かで、居心地よい。趣味はイラストだという。

大森南朋 「最近は岡本太郎トリビュートTシャツ展にも出品しました。彼(岡本太郎)を僕の印象でTシャツに描くのです。今となっては口で説明するのも恥ずかしいですけど…。普段は落書き程度に描くくらいで、ちゃんとした作品を作ろうという意識はありません」

お酒も趣味のひとつだとか。なかでもお気に入りは焼酎。撮影の間、日本の名酒を交えた“国際交流”はなかったそうだが、主役のコニー・ニールセンからセリフで使う英語の発音を習うなどはした。コニーは、どんな役者、どんな女性だったのだろう?

「『どんな人でしたか?』って聞かれるっていいですよね。そういう役者さんっていいですよねえ」

ほかの役者さんについて聞くなんて失礼だったかもしれないのに返す言葉は柔らかくて優しい。それが大森南朋だ。


text by Ryoko Kubo/久保亮子


大森南朋 おおもり・なお
大森南朋昭和47年、東京生まれ。平成8年に市川準監督のCMで田中裕子の相手役として注目を集め、本格的な俳優活動を開始。井筒和幸監督「ビッグショー〜ハワイに唄えば」(11年)、北野武監督「Dolls」(14年)、平山秀幸監督「OUT」(同)などに出演。最近では、廣木隆一監督「ヴァイブレータ」(15年)、「アイデン&ティティ」(同)、「赤目四十八滝心中未遂」(同)、「深呼吸の必要」(16年)に出演し、15年度キネマ旬報ベスト10日本映画助演男優賞を受賞。テレビドラマ「僕と彼女と彼女に生きる道」(16年)、「夫婦。」(同)に出演し、日本のCMや映画界ともに欠かせない俳優のひとり。本作は、初の海外作品。
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