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柔道と乙女たちと日本美人
産経新聞東京特派員が魅せられたタカラヅカ
2月17日(土)東京朝刊 by 東京特派員・湯浅博
つい最近、米通商代表部(USTR)の部長をしている知人を、早朝の成田空港に出迎えた。拙宅に向かう京成線の中で、彼女には見せたくない光景が目の前で展開していた。

コミック風にいうと彼女の目が「点」になっていることに気づいた。視線の先に楚々とした日本美人がいる。悲しいことに容姿と礼節はなんの関係もない。

ご想像の通りで、同胞には見慣れた「車内で化粧」の光景だったのだ。米国人の彼女は、よほどのショックであったらしい。

「なぜ、家で化粧をしないのかしら」

ほらきた。こんな質問には答えようがない。車内で化粧することにこだわりのない人もいるし、そうでない人もいる。そこへ行くと体育会系の女性たちは違うなどと頭はあらぬ方向へ飛んでいく。

「実は」といって、過日の宝塚歌劇団の女性たちに会った印象を語った。その数日前に、全日本学生柔道連盟の副会長、植村健次郎氏と一緒に、東京公演中の男役と娘役の宝塚乙女に会ったばかりだったからだ。

「宝塚は柔道と同じで体育会系です。極めて礼儀正しく、上下のけじめがきちっとしている」

植村さんは自他共に認める宝塚歌劇団の支援者の1人だ。それにしても、激しい柔道と華やかな宝塚がうまく交わらない。

彼は高校時代から双子の兄、剛太郎氏とともに「慶応に植村兄弟あり」といわれるほどの猛者だった。大学柔道でもトップ級のスター選手で、イリノイ大学への留学を終えてのち慶応大学の柔道部監督を務めた。

その“ミスター柔道”が、ともかく宝塚を絶賛する。

植村さんはソニーの社員だった時代に、大阪市の阪急三番街に米国式の高級ストア「ソニープラザ」の店長に就任した。問題はどうやってこの店を市民に知ってもらうかだ。大阪といえばタカラヅカだから、宝塚音楽学校の生徒が来れば彼女たちが磁場になる。

音楽学校の生徒たちが来店しやすい環境を用意すると、レッスン帰りのタカラジェンヌがやってきた。音楽学校は予科、本科ともに1年ずつの計2年だ。プラザで上級生とすれ違う予科生は、ピシッと整列して帽子をとると先輩にお辞儀をする。

「アレレ、これは体育会系だ」

柔道と宝塚との遭遇である。植村さんはすっかり宝塚ファンになった。

銀座で小料理屋「浜ゆう」を営む森本和子さんは、そのころの昭和42年に万鯉(まり)たつ美の芸名で初舞台を踏んだ。彼女が宝塚音楽学校に入ると、まず上級生に全員が集められて訓示を受けたという。

「あなたたちは、決して恥ずかしい行動をとってはいけません」

「先生のいうことに従い、あいさつは怠りなく」

いまをときめく扇千景参院議長は、これを3年かかって卒業している。歌手の小柳ルミ子は2年で卒業すると、タレントに転身した。

子のしつけが親の責任であるように、ここはもっぱら上級生の役割で先生は関与しない。寮での洗濯も、上級生がくると「お先にどうぞ」と譲るから夜中になっても自分の番が来ない。その代わり、風邪で休んでいると、上級生が励ましに来てくれるほどの絆ができる。

宝塚通の作家、深田祐介さんによると、旧軍の伝統が宝塚に転移しているという。トイレも廊下掃除も役割分担があって、「予科行動掃除 舞台下手させていただく者、○○です」と叫ぶ。生活指導は先輩がいわばウーマン・ツー・ウーマンで教える。

植村さんと会った若手2人によれば、厳しい規律になじめない人は脱落していくという。初舞台を踏んで劇団員になっても試験があり、成績ですべてが決まる。

そこで、「上下逆転すると、陰湿な女の戦いやイジメは?」と水を向けてみた。「それはありません」と2人が声をそろえる。

「上手な人への尊敬がありますから、内心で悔しさを秘めても人知れず努力します」

稽古中は午後10時に終わって、さらに個人レッスンをすると午前零時を回ってしまうという。歌劇団は雪、月、花、星、宙の5組が交代で公演を行う。

植村さんを通して華麗な宝塚の印象がガラリと変わった。通商代表部の米国人女性が、宝塚歌劇団に大いなる関心を示したのは言うまでもない。

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