宝塚のファントム(怪人)は、やはりかっこよくて美しかった−。
宙組の宝塚大劇場公演「ファントム」(関連記事:制作発表)は、アーサー・コピット脚本、モーリー・イェストン作詞・作曲による1991年初演の米国版ミュージカルを、中村一徳(関連記事:「非宝塚」が「超宝塚」になる魅力)が宝塚版に潤色・演出した1本立て大作。ガストン・ルルー原作の怪奇小説「オペラ座の怪人」が下敷きで、映画や英国版ミュージカルでもよく知られた作品だが、今回は怪人というより、哀しい人間の生い立ちが浮かび上がる、ひと味違った仕上がりになっている。
19世紀後半のパリ。オペラ座の地下に住む不気味なファントム(和央ようか)は、美しい声を持つ清らかなクリスティーヌ・ダーエ(花總まり)(関連記事:名前の秘密)に亡き母の面影を重ね、正体を隠して歌を指導し、愛するようになる。オペラ座のパトロンでハンサムなシャンドン伯爵(安蘭けい=星組)(関連記事:ロマンチックに男役)もクリスティーヌに恋していた。
ある事件をきっかけに、ファントムはクリスティーヌを自分の棲家に連れ去る。追いかけてきたオペラ座の前支配人キャリエール(樹里咲穂=専科)は、彼女にファントムの過去を話し、逃げるよう忠告するが、クリスティーヌは残る。2人の心は通い合ったかに思われたが、仮面をはずしたファントムの顔を見たクリスティーヌは、悲鳴をあげて逃げ去って…。
宝塚のビジュアルでは醜い姿形をリアルにはできない。和央が顔の右半分に作った大きな傷跡は異例のメークだが、次々に着替える衣装が長身に映え、心情に合わせてつけかえる白やブルーの仮面もかえってかっこよく見える。
もともと辻褄(つじつま)の合わないことが多い作品だけれど、米国版とは物語の根幹が違ったうえにファントムの登場場面を増やし、73人もの出演者に役を振り分けて、踊るシーンを加えた。また、ファントムとキャリエールの過去が明かされることで、親子関係や人間としてのファントムがクローズアップされ、孤独感や恐ろしさ、神秘性が薄くなった。もっと大胆に潤色してもよかったのではないか。
プロローグで和央が歌う「僕の悲劇を聴いてくれ」など、新たな数曲も提供しているイェストンの音楽は、クラシカルで美しく心地いい。樹里の好演が光る。
21日まで。
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