「凱旋門」の東京公演ではフランス人のヴェーベル医師から、ロシア人亡命者でナイトクラブのドアマン、ボリスに役が変わりました。ボリスはロシアから逃れてきた男。作品の中での立場や時代への向き合い方も全く変わりました。それを一番感じるのは最後の第二十一場。ロシア人である彼が、パリ解放を喜びフランス国旗を振る。ヴェーベルとは心の奥に流れるものの違いを強く感じる場面です。
ラヴィックに対しても、ボリスはひとりの人間としてほれ込んでしまったんでしょう。愛情に近いものがありますね。最後にラヴィックが、自分の用意した旅券を断り収容所行きを選んだときも、「二度と会えないかもしれない」という気持ちを抑え、ラヴィックの生き方を尊重する。クールというひと言では片づけられたくない男。人生を納得し、踏みしめて歩いている人です。
好きなシーンは、ラヴィックが帰ってくる再会の場面。オフの飾らない二人がいる。さりげない日常会話や姿を演じるのが楽しいです。
この作品の一番のテーマは「命」です。だからこそ今、上演する意味があると思う。人は目標がないと、生きていけないんだなと感じてほしいですね。ボリスは、そんな生きることがつらい人たちにドアを開け続けた男なのだと思います。
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しおかぜ・こう 昭和63年、初舞台。花組に配属。その後、月組、雪組と組替えし、平成10年、バウ公演「心中・恋の大和路」に主演、忠兵衛を演じた。今年6月から専科所属。演技派スターとして活躍中。