東京・千駄ケ谷の日本青年館大ホールで上演中の宝塚歌劇星組東京特別公演、バウ音楽詩劇『イーハトーヴ 夢−宮沢賢治「銀河鉄道の夜」−』(藤井大介脚本・演出、二十九日まで)が、いかにも宝塚らしい作品だ。
気分がほっとする。美しく清らかな世界。宝塚だからできる、タカラジェンヌだから本気になれる、そんな意気込みがスタッフ、キャスト全員にみなぎっている舞台である。
九日から十八日まで、兵庫県宝塚市の宝塚バウホールで初演された次代を担う男役スター、夢輝のあのバウ初主演作。十八日の千秋楽には、フィナーレで客席からいっせいにブルーと白のペンライトが振られ、「客席にも銀河を作っていただいて…」と夢輝が涙ぐんであいさつ、その直後、全員が立ち上がってのスタンディング・オベーション。拍手がいつまでも鳴り止まぬ感動シーンとなった。
舞台は、賢治の傑作童話「銀河鉄道の夜」をモチーフにしているが、賢治の人間性に焦点を当て、彼の人生と彼が描く夢の世界とを交錯させている。賢治というピュアな詩人の履歴と家族や友人たちとのエピソードを踏まえたうえで、藤井は「銀河−」の童話世界と賢治の一生を同時進行させた。だから、人との出会いや別れ、いさかいなど、喜びや悲しみが銀河の果てに吸い込まれて、ついにはみんな美しい星になるのだという人間賛歌を導き出している。
夢輝以下、出演者三十人のハーモニーが抜群なのも、いい。歌唱に秀れたスターが多いことに加えて、若手の奮闘が目立つ。星組の未来は明るいと期待がふくらむ。
夢輝は、賢治と「銀河−」の主人公ジョバンニにふんし、現実と夢を行き来する。透明感があって、清れんな男役のイメージを持つ夢輝は、賢治童話を読み込んだ成果が全身にあふれ出て、求道者のような現実の男と銀髪、白い衣装で現れるジョバンニ=写真(宝塚歌劇団提供)=でのまるで星の王子様をほうふつとさせる少年の対比が見事。
賢治が愛する妹トシの映美くららは笑顔が優しく、温もりがある。
久城彬の賢治の父の作りも、厳粛な家系の血を感じさせる厳しさで一目。
しのぶ紫、そして陽色萌、花城アリア、高宮千夏の歌、柚希礼音の躍動感、椿火呂花の静、雪路歌帆と陽月華の明の芝居も印象的。
全員芝居だ。(演劇コラムニスト)
|