『イーハトーヴ 夢』では宮沢賢治自身と、『銀河鉄道の夜』のジョバンニの二役を演じています。賢治もジョバンニも白くて透明なイメージ。違いを出すのに二人の声を変えるところから役作りを始めました。ジョバンニは声変わりする前の男の子。普段は高い声も出るので大丈夫と思っていたのですが、男役を十年やってきて男役の声を出し続けてきたので、声のコントロールが予想以上に難しかったです。
実は賢治は学校の授業で知っている程度でした。このバウ公演の題材が賢治だと聞いたときは、「うわー、どうしよう」と思ったぐらい。でも、改めて作品を読み直してみると子供のころのイメージとは全く違う。ちっとも古びてなくて、今の時代にこそ必要なことがたくさん書かれている。本当にすごい人だったんだなと思います。
賢治もジョバンニも格好いい二枚目ではありません。大恋愛もない。刺激物は何もないので、どうかなと不安もあったのですが、宝塚の公演では、客席と今までにない一体感を感じました。
命の貴さ、強さがテーマです。世の中、いろんな嫌な事件がありますが、私自身、この作品で原点を見つめ直し、子供のころの無垢(むく)でいつも新鮮だった感覚を思いだしました。お客さまにも、見終わって澄んだ気持ちになっていただきたい。そして小さな子供たちにも見てもらいたい舞台です。
田窪桜子@産経新聞東京文化部