一日夜、新宿の東京厚生年金会館で開かれた「寺田瀧雄作曲家生活四十周年記念コンサート」を見て、いささか、興奮してしまった。
寺田さんは四十年、宝塚の歌を作り続けてきた人で、わたしの青春の裏ページが花火のように色鮮やかによみがえってきたからだ。
裏ページとは、宝塚ファンとして歩んできた、わたしの青春のこと。
大学生のとき、宝塚の魅力にとりつかれた。昭和四十年代で、周囲には知られるのが恐ろしいころだった。隠れキリシタンではないが、娘役のブロマイドをこっそり部屋に飾って、架空の恋人にしていた。「あの子、大丈夫?」といぶかる、母と姉の内証話を聞いてしまったこともある。
若い男が宝塚を口にすることが不思議がられた。数年後に「ベルばら」ブームが起こったことも、宝塚は夢見る少女のものという印象を世間に植え付けていた。
が、そんなことはいまや、どうでもいい。
懐かしい宝塚ソングの数々を、懐かしい宝塚卒業生たちが歌うさまを見、聴いていたら、ただうれしくなった。
寺田メロディーの中に若かったわたしがいた。素晴らしいタカラジェンヌたちと時代を共有していたのだという誇りがわき上がる。
宝塚ファンで本当によかったと実感した。
最上級生で登場のスータン(真帆志ぶき)は、わたしが自費で初めて見た舞台の主役。
カンちゃん(初風諄)のマリー・アントワネットの歌の素晴らしさ。
ツレ(鳳蘭)の心躍るプロの歌唱表現、おトミ(安奈淳)の情感、男役の残照をターコ(麻実れい)が洋の味で見せれば、ミネ(峰さを理)は和風味で。
ナツメ(大浦みずき)、カリンチョ(杜けあき)、ヤン(安寿ミラ)の歌。
ショーコ(黒木瞳)は、いつ見てもかわいい永遠の娘役。
驚きは、やっちゃん(神奈美帆)。去年、二人目の子供が生まれ、もうサザエさん状態なんていっていたのに、伸びやかに「たまゆらの記」を歌った。
ショウちゃん(榛名由梨)やジュンコ(汀夏子)、イーちゃん(寿ひずる)、モサク(平みち)たちもいた。
こんな歌える卒業生たちを一堂に見てしまうと、現役生の歌唱力の低下を嘆きたくなる。
寺田さんのコンサートは、懐かしさと華やかさの一方で、現在のタカラジェンヌの歌唱力の課題を浮き上がらせる結果にもなった。
000306産経新聞東京夕刊