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エリザベート講座
--一路真輝をめぐる考察--

 ミュージカル「エリザベート」が、六、七、八月の三カ月、東京・日比谷の帝国劇場で上演される。

 十九世紀中ごろにオーストリア・ハプスブルク帝国の皇妃となったエリザベートの悲劇の生涯を描いた舞台。一九九二年にウィーンで初演され、日本では四年後に宝塚歌劇で潤色上演された。

 話題は今回、エリザベートを演じる一路真輝がじつは、日本初演の宝塚版のとき、雪組のトップスターとして死の象徴でエリザベートにつきまとうトート役で主演していること。

 ひとつの作品に登場する主要な男女の役柄をひとりの俳優が演じるのは珍しいことで、普通の演劇舞台ではまず、ありえない。そこに独自の芸能形態である歌舞伎と宝塚をもつ、日本の芝居世界のおもしろさがある。

 歌舞伎では、立ち役と女形を演じ分ける役者は多い。

 宝塚では男役娘役の区分けが厳密で、男役が娘役を一時的に演じることはあっても、娘役が男役になる例はほとんどない。男女役が身長の高低で決められているからだ。

 が、一路は高からず低からず、ソフトな見栄えと濃淡自在な芝居心をもっていたので、宝塚時代、両方を器用にこなして人気があった。

 極め付きが、「風と共に去りぬ」。本公演でヒロインのスカーレット・オハラを光り輝くように演じながら、新人公演では、そのオハラに言い寄るレット・バトラーを、口ひげを付け、好色目に工夫をこらした濃厚な男性像で表現して周囲をびっくりさせた。

 そのバトラーは一路最後の新人公演主役で東西二回しか上演されていないから、いまや伝説の舞台となっている。

 宝塚版「エリザベート」が一路主演で上演されると聞いたとき、多分、ヒロイン役だろうとだれもが予想したが、その舞台が一路の退団公演だったことで、正反対の冷厳な黒ずくめの死神役にまわったのである。

 男役なのに優美さが勝ち過ぎるといわれてもいた一路が造形した初代トートの「氷の微笑」は、たまらない魅力だった。

 現在、女優で活躍中の一路が、シシィと呼ばれたおてんば娘から笑顔を忘れた美ぼうの皇后に至るエリザベートの人生に挑む。

 「この作品には、縁以上のものを感じる」と語っていた一路。愛する側から愛される側に転じて見せる女心の微妙が見逃せない。

000424産経新聞東京夕刊




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