宝塚歌劇・宙(そら)組の初代男役トップスター、姿月あさとが、きのう七日の東京公演を最後に十四年間の宝塚生活に別れを告げた。
トップとなって二年四カ月、新組誕生で沸いた宝塚人気をリードしてきたスターだけに、もう少しいてほしかった。
宝塚歌劇団も必死で慰留に努めたというが、姿月の決意は変わらなかった。
最近、トップスターの退団が早過ぎる。
なぜか?と考えると、タカラジェンヌを取り巻く環境に原因の一端があるらしい。
スターのプライバシーにまで入り込もうとする一部過熱ファンの存在、そして宝塚マスコミの報道姿勢。両者の対応で、「人間不信に陥った」と姿月は言った。
男役スターを追いかけるファンには、自宅を探し当て、パジャマ姿でくつろぐスターの写真をとったりする者までいる。「いいかげんにしてよ!」と、叫びたくなるのは当然だ。
姿月の場合はしかし、対マスコミ不信も大きかった。「あまりに推測ばかりで書いていません?」と、不信感をつのらせた。
姿月の早期退団が、マスコミの取材姿勢にも要因があったとしたら、心が痛む。
取材者の一人として反省もあるが、姿月への注文もある。取材への不満は、沈黙で対抗するより直接、ぶつけるべきではなかったか。対決は、コミュニケーションを生む。
姿月の同期生で、一足先にトップとなり、平成宝塚の人気ナンバーワンスターだった天海祐希(現女優)も、マスコミ不信をよく口にした。記事は発言を正確に伝えていない、が理由だった。
が、天海は闘った。
わたしも抗議されたことがあるが、直接だったため、そこから対話が生まれ、以降、闘いながら互いを認め合うことができた。
やはり、女優で活躍中の安寿ミラには、「端っこの娘役を書くなら、センターで命かけてるわたしたちをなぜ、もっと書かないの!」と怒鳴られた。娘役びいきのわたしには、それなりの理由があったが、安寿の言い分も納得した。それから、安寿と気まずくなることはなかった。
「もうイヤ」と黙る前に、不満をぶつけてほしかった。
退団が残念で、ついグチになったが、救われるのは、「嫌いになりかけた宝塚を、やっぱり好きで辞めていくんだと思える自分でよかった」と、姿月が言ってくれたことだ。
000508産経新聞東京夕刊